サキさんのお話
「お待たせ」
サキさんはお茶と一緒に本を何冊か持ってきた。
「私の竜に関する雑記ノートよ。ほとんどは私の空想だけど、あなたたちの竜の話を聞かせてちょうだい」
「あ、これ、知ってる」
一冊の絵本に見覚えがある。
「お婆ちゃんが読んでくれた。リンもこの絵本の竜は父さんに似てるから大好きだって」
「私も大好きな本よ。あら…待って今、父さんって言ったわね。リンさんはお父さんが竜なのかしら?」
しまった…今、迷ってたことなのに、うっかり口から出てしまった。
「あの、実は僕達、竜を探しに来たんです。リンは家族なんです。ここに手がかりがあるかもと思って来たのですが」
サキさんは僕たちが少し神妙な顔になったのに気づいて、声のトーンを落としてくれた。
「大丈夫よ、他の人には言わないわ。それで、手がかりはここにはあったの?」
「直接的なものは見当たりませんでした、なんとなく一番気配が近い気がするのはその紫色の花なんです」
「この花は…そうね、もしかしたら竜に関係あるのかもしれないわ。私の故郷にあったの。故郷には雨を降らせてくれる竜がいて、神竜様って呼んでいたわ」
話ながら唐突に、サキさんはぽたっと涙を零した。
「ごめんなさい。本当に竜は大好きなの…でも楽しい話だけというわけにはいかないみたい。神竜様はね、大きくて少し怖かったけど、とってもきれいで、降らせる雨は不思議に温かかったわ。私はその神竜様への生贄だったの」
「えっ!竜って人を食べるんですか」
「そうなの、でも実は食べてもらえなかったの。『私を食べてどうか雨を降らせてください』とお願いしたのだけど、『食べたくない』と言われてしまったわね」
「なんでそんなことに…」
「私はその少し前に家族を亡くしてしまって、もう生贄でもいいかなって思ったんだけど、神竜様は『雨は降らせるから遠くへ行きなさい』って言ってくれて、ここに逃がしてくれたの。それからはここで家族が出来て普通に暮らしていたの、でもしばらくしてから竜の素材を売っている人達がいるっていう噂があったの」
「竜の素材を売る人の話はここに来る前『ガルテン』で聞きました。その素材は、もしかしてサキさんの村にいた竜神様なのでしょうか」
爺ちゃんが聞いた。
「私もそれが気になって、夫に頼んで故郷の村に連れて行ってもらったの。でも村には神竜様はいなくて、畑も家も荒れ果てて誰もいなかった。この花だけが咲いていたの」
「その村はここから近いんですか?」
「ここから一日歩けば、日暮れの頃には着けると思うわ」
「そこまでの道を教えてください」
「そうね、明日の朝、ペータ達と上に登るといいわ。途中まで案内してくれると思うの。良かったら今日は家に泊まっていって」
「サキさん、この子は子供で私は老人ですが、知らない男を泊めるなんていけませんよ」
「あら、そうね。でも夕食は一緒に食べて欲しいわ。お客さんが来るなんて久しぶりだもの。ね、お願い」
「あの、僕、靴もズボンが汚れてて、お部屋を汚してしまうかもしれなので」
「そうなの?では夕飯もここで頂きましょう。自慢の庭でお客様を招く夕飯も素敵だわ」
夕飯はとても美味しかった。
結局その日はお言葉に甘えて納屋の片隅に一泊させてもらった。
見上げた空は泉の中から見えた満点の星空と同じだった。
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