砂漠と精霊様
……っ……頭が痛い。
「起きたかアーク」
ザジさんに揺さぶられ、慌てて起き上がる。振動でさらに痛みが増した。
「じゃぁ、俺は帰るな」
「……え?ちょっと待ってください!!」
「なんだよ。教えることは全部教えたし、もう大丈夫だ」
確かに昨日は砂漠の動植物についていろいろと教えて貰ったが、唐突な発言に痛む頭が全然ついていけない。
「そうそう、果実漬けの買い取り金額はこんなもんでどうだ?」
こちらの反応はお構い無しに、ザジさんは一人で話をどんどん進めていく。
手渡してくれたお金は、話し合っていた金額より多かった。
「こんなに?ありがとうございます」
「ダットが美味しいと言うから、少し高めに買い取ってやるよ。上手く儲かったらまた持ってきてくれよな」
話を終わらせると、僕の頭をポスポス叩いてから、すぐに立ち去ろうとする。
「ここの家はしばらく使って休んでいってもいいぞ。じゃぁな」
「あのっ。俺っ具合が悪くて……」
僕の具合が悪くても、面倒を見る筋合いはザジさんに無いだろうけど、突然の別れと不安で思わず口に出てしまった。
「ははっ。二日酔いだろ。夕方くらいまでは辛いけど大丈夫だ。水飲んでろ」
昨日のザジさんは僕よりずっと飲んでいたのに、一人だけすっきりした顔で、別れも惜しまず『ドーラ』へ戻って行った。
僕は頭がズキズキ、胸がドクドク胃がチリチリして、起きる気になれなかった。
きちんとした見送りもお礼も言えずに一人で頭を抱えた。
ザジさんが置いていってくれた水を飲み干しても体調は全然治らない。
この言いようもない不安と、具合の悪さは本当に大丈夫なんだろうか……。
気持ちまで沈んでいると、ミカがやってきた。
「お兄ちゃん大丈夫?お父さんが様子を見てこいって言うから来たよ」
「ミカー!!」
汲んできてもらったお水を貰って、またガブガブ飲み干した。
「ザジのおじちゃんにもさっき会ったよ。おじちゃんにも頼まれたの~」
「俺、昨日はどんなだった?覚えてないんだ」
「普通だったよ。もう一度、家族のお話をしてくれて、探している人のお話を何度もしていたよ」
それからこそっと耳打ちしてくる。
「ねぇ探している人って本当は精霊様じゃない?」
ミカは続きを何故か嬉しそうな顔で話し出す。
「子供の頃精霊様に会ったって、綺麗だったって、言っていたの。それで探している人も綺麗だって。だからね、探している人は精霊様じゃないかと思ったの。ミカも前に泉で、キラキラしたのを見たことあるんだ。うっすら透き通って、綺麗で、ずっと見ていたら目があって、そしたら消えちゃった。私も一度だけしか見たことないからまた会いたいんだ。お兄ちゃんもそうなんじゃない?」
「いつ?どこ?どこで見たの?」
「すぐ近くの泉よ。このお水を汲んできたところ」
「ちょっと、一緒に来て」
急いでミカの手を引いて泉に向かった。
「精霊様。精霊様」
泉に向かって声をかけるが、なにも反応は無かった。
がっかりして、ミカの方を見るとミカはキラキラした目で泉を見つめながら興奮気味に話し出す。
「すごい、すごい!声が聞こえる。これ精霊様の声なのかな?」
……おかしい、僕にはなにも聞こえない。心臓がドキドキして頭がズキズキする。
「ミカ、なんて聞こえる?」
「ん~とね。アークって呼んでいるよ」
……なんだか視界がゆらゆらしてきた。
そういえば、今までに精霊様が現れる時は泉がゆらゆらすることがあった。
今がそれかなと思って顔を上げても、望んでいたものは見えることも聞こえてこない。
「精霊様、俺ね、今、砂漠にいるんだ。今度こそリンを見つけるから、そしたらまたあの泉に会いに行くね」
精霊様が目の前にいることにして、泉に向かって話しかけてみた。けれど、どれだけ待っても返事が聞こえてくることは無かった。
ミカはは大喜びで、しばらく泉に向かっていろいろとお話をしていた。
「一緒に来てくれてありがとう。ミカ」
「すごかったね。キラキラして綺麗な声だった」
「うん」
「でもお兄ちゃん元気がないね。探している子じゃなかったの?」
「ううん。すごく会いたかった子だよ」
「そっか」
集落に戻ると、リリー一家が放牧から戻って来ていて、ミカは家族の元に駆け寄った。
「お婆~。ミカね精霊様とお話したよ」
「そうかい、そうかい。良かったねぇ」
「お兄ちゃんのお友達だったみたい。ミカもいっぱいお話したよ。それでキラキラしてた!」
ミカは興奮冷めやらず、ダットさんにもアンナさんにも同じ話を繰り返した。
「あんたは元気がないね」
お婆はなにか察したのか、諭すように優しく話しかけてくれた。
「精霊様はみんなを見守ってくれるからね。それは変わらないことなんだよ。大丈夫さね」
お婆の話はあまり頭に入って来ない。
受け入れたくなくて聞かないようにしたのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます