砂漠の家族
探索用の荷物を小屋へ置いてから戻ってみると、木陰の敷布の上にはたくさんの料理が並んでいた。
「すごい料理ですね」
「今日の仕事はもう終わりだからね。夜までゆっくりするとしよう」
テキパキと料理を並べるミカの父親、ダット・リリーさんに挨拶して、端の方に座らせてもらった。
料理の他に、たくさんの美しい模様が描かれた布が重ねてあった。
「この布、ザジさんのお店でも見ました」
明るい陽の中で見るからか、たくさんあるからなのか、ザジさんの店で見たものより一層鮮やかで美しかった。
見惚れていると、刺繡道具を持ったミカがやってきた。
「すごく綺麗だね。ミカが作ったの?」
「あのね、こっちはお婆で、この辺はお母さん。今ミカが作っているのはコレ!」
ミカは作りかけの作品を広げて見せてくれた。
「ここがラクダで小鳥さんがいて、太陽もあるの。ここは難しいからお婆に教えて貰うんだ」
「すごいなぁ。綺麗でずっと見てられる。ザジさんのお店にも並べてあったよ。埃っぽいお店だったのに、布が置いてある棚だけはきれいに拭き掃除されいて、大事に飾ってありました」
布を褒められた女性達は気をよくしたのか、自信作をいろいろ見せてくれた。
どれも細やかなのに大胆で、鮮やか紋様に圧倒された。
お婆はミカに刺繍を教えながら話し出す。
「この刺繡はワタシが母から、母は祖母から、代々教わってきた模様なんだ」
「あの、皆さんお名前に『リリー』とつくのは家族だからですか?」
「そうだよ。名前は家族の証さぁ。砂漠は家族と助け合わないと暮らしていけないからね。いろいろ教えて貰って、助け合って今の私達が暮らしているのさ。でないと水の場所も分かりはしないよ」
「私は刺繍は少し苦手だけど、教わった料理の方は好きでちゃんと身に着いたわ」
苦手だと言っているミカの母親、アンナ・リリーさんの刺繍は苦手の意味が分からない程の腕前だ。
「ワタシの知っていること親から教わったことは、みんなこの子達に教えてあげようと思うんだ。刺繍の他にも役立つことも、今となってはもう役に立たないかもしれないことも全部ね。それはどの家でも同じだろ?あんたの家族のことも聞かせておくれ。それと、砂漠の外の街の話も聞きたいねぇ」
食事をしながら家族の話、故郷の話、薬草園に炭酸水、シュワシュワの実と温泉が湧く川、いろんなことを話した。
話し始めると、思いがけずにいろいろな記憶の扉が開き、忘れていたことまでいろいろと思い出した。
「そうかい、そうかい。それでこんな遠くまで良く来たねぇ。これからどこまで行くんだい?」
「砂漠に探している人がいるのですが、場所まではわからないんです」
リンの容貌を伝えるが、一家には心当たりがないようだった。
リンが竜のことは迷ったが伝えるのはやめた。
「では、この辺りは良く雨が降るような場所はありますか?」
「雨はあまり降らないし、決まった場所で降ることは無いわねぇ」
こちらも心当たりが無いようだ。
「こんな遠くの砂漠まで来て、目的地も分からねぇのか。それは難儀だな」
ダットさんと飲んでいたザジさんが話に入って来た。酒臭い。
「とりあえず、砂漠の真ん中に行こうと思っています」
「真ん中ってどこなんだよ。印がついているわけでもねぇし」
「もっと北の方に行くと街道があるし、オアシスが点在していて、人も多いから人探しをするのなら行ってみるといいわ」
ザジさんの最もな指摘にアンナさんが助言をくれる。
「それで、ラクダを連れて行くのが良いと教わったのですが、アンナさん達が連れていたのがラクダですよね。果実漬けをザジさんに売ったお金でラクダを買う足しにしようと思っていたのですが」
「あの塩漬けの酸っぱい果実ね。食べると頭がすっきりとして美味しかったわ」
「あ~。すまん、買い取り額はラクダが買えるような金額にはならないぞ。年寄りのラクダだったら多少はなんとかなるかもしれないが」
「あの、一頭お幾らで取引しているんでしょうか」
「長い間、砂漠を彷徨うことになるのなら、丈夫なメスでミルクが出るヤツがおすすめだ」
ダットさんが示す値段は全財産に近く、今すぐに買うことは難しそうだ。
「砂漠を北へ抜けるだけだったら、年寄りのラクダで良いと思うけどな。砂漠に入る時に一頭買って、砂漠を出る時にラクダとロバを交換するか売ってもいいしな」
ザジさんが提案してくれるラクダはすぐに砂漠を出る場合の提案だったので、アンナさんとダットさんはおすすめはしないということだった。
「北に進んで、街道沿いに進んでいるうちはラクダがいなくてもなんとかなるさ。まぁとりあえず、飲め」
ザジさんに進められて初めてお酒を飲んだが、ここから先の記憶はない。
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