砂漠の動物

「上手いじゃないか。狩りに関しては教えることはあまりないみたいだな。思ったよりは楽で助かるわ」

 既に火の準備はできていた。渡した肉は薄切りにされ、さっと炙るとすぐに香ばしい脂が滴る。

「俺は肉は焼く派なんだ」

 ザジさんはそう言いながら持参した固いパンの上に肉を次々に載せ、肉汁が浸み込んで柔らかくなったパンをかじりながら、僕にも同じものを渡してくれた。


 二人で食べる分には多いくらいの肉が獲れたので、ザジさんの指示で残りは煮たてたあとに塩を塗りこみ、風通しの良い場所に吊るしておいた。


 お腹をがいっぱいになった後は、周辺を案内してもらった。

 砂漠の食べられる植物を教えてもらい、鳥の巣から卵を収穫する。

 しばらくそうやって探索していると、白茶色の地面に濃い茶色の染みが見えるようになった。最初は気のせいかと思ったが、染みは形を変え、長く大きくなっていく。


「ザジさん。あの地面の動く茶色い模様はなんですか?」

「ん?あ~ラクダだな。あのあたりで放牧しているんだ」

「あれがラクダ……」

 目安になるものが無いので、どのくらい遠くにいるのか、どのくらいの大きさかは分からなかったが、横に伸びている茶色い模様がラクダだとしたらかなりの頭数になる。


「そろそろラクダも戻ってくる頃だから集落に帰るか」


 ザジさんの言う通り、日が高くなる頃、集落には賑やかな鳴き声が近づいてきた。


 ラクダは荷物を運ぶ動物と聞いていたから、ロバや馬のようなものを想像していた。

 なのに、この生き物の背中は自分の身長より上にあり、凹凸があって荷物が積みやすそうには見えなかった。

 顔は笑っているように見えて、親しみやすいと言えばそうなのかもしれない。見つめていると、ラクダは歯ぐきを持ち上げてさらに笑う。白くて丈夫そうな歯を見せながら『ぶふふん』と鳴いた。


「ザジのおじちゃん」


 ラクダたちの間から十歳位の女の子が飛び出てきた。

「よう。ミカ」

 ミカと呼ばれた女の子声に駆け寄られたザジさんは塩漬けの果実を一つ渡す。

「なぁにこれ?食べて良いの?ありがとう」

 小首をかしげて、躊躇ちゅうちょなく果実を口にいれたミカは、ラクダ達の元に戻っていったが、少し進んでからまたこっちへ戻って来た。

「おじちゃん。これもう一つちょうだい。なんだかすっとした。お母さん達にもあげたい」

「お、美味しいか?それじゃぁ、みんなにも一つずつあげてこい」

 ザジさんは塩漬け果実を追加で渡す。

「なぁ、ミカはこれ一つとお水を交換するならどのくらいと交換してもいい?」

「ん~ミカわかんない。お水は大切だよ。お父さんに聞いてくるね」


 ミカはすぐにひょろっとした細身の男性とふくよかな女性を連れてきた。

「やぁザジさん。お久しぶりです」

 その少し後ろからはお婆さんも現れた。

「ザジ、久しぶりだね。街のお話を聞かせておくれ」


「お婆、みんなも元気そうでなによりだ。オレも少し話があるんだ」

「そうかいそうかい、では、ご飯を一緒に食べよう」

 お婆さんはザジさんの後ろにいた僕にも声をかける。

「そっちのアンタもお話し聞かせておくれ」


「お婆は旅人の話を聞くのが好きなのよ。他に予定がなければお話してあげて」

 隣にいたミカの母親からも声をかけられたので、改めて挨拶をして、先ほど採れた卵を手土産にしてお邪魔することにした。

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