分からないこと

「わっ私……。ごめんなさい」


 どう言えばいいだろう、どうすれば良いだろう。私のせいなのにどうしたら良いのかわからない。分からない事ばかりだ。


「なんで謝るの?」

「だって、私の鱗で私が気を送って……」

「アークが受け入れないと番にはなれない」

「それに、アークがここに来たのは私が家に戻らなかったからで……」


「良く分からないけど、一緒にいれば大丈夫なんだよね?」

 アークは問題ないのだろうか、でもそんなはずは無いのだ。


「番って夫婦ってことよ。私は知っているわ。サニーとミスティが夫婦になって、アメリアとアルヴァが生まれて、アークもそうやって大事な人を見つけるのよ。それを私が邪魔してしまったわ」

「うーん。リンはイーサと夫婦だよね」

「イーサと夫婦って呼ばれていたわ。でも……あのね……」

 月日が経つと町の人にはイーサの娘だと思われていた。私は普通の夫婦にはなれない。

 でも家族にはなれた。アークやリリス、テオとテルマにお婆ちゃんと呼んで貰った。これからアークも相手を見つけて、これから先の家族を繋いで、私はその家族と一緒に過ごしていくことが当たり前だと思っていた。


「俺、イーサがいなくなって、リンも帰ってこなくて悲しかったんだ。だから、その……一緒にいるのは大丈夫。むしろ、いて欲しいんだけど」

 アークの首筋がほんのり赤い。


「番になると不安定な精気を探さずに済むし、困ることはないと思うんだけど、なにが嫌なの?」


「嫌じゃないわ」

「嫌じゃないよ」

 アークと声が重なり、視線を合わせて笑ってくれた。いつだって私に笑顔を向けてくれる優しい子だった。


「問題ないよね?」と不思議そうな顔でナディが言う。

 順番を追って口に出していくと問題は無いことになるのかしら。なにかが違うような気がしてしまうが明確に分からない。

「とりあえず、明るくなったら帰ろう。帰って、それから考えよう」

 アークの方も一旦話を先送りにした。

 そういえば、皆が私の帰りを待っている、優先順位がある。まずは家に帰らないと。

それまでになにか出来ることが思いつくかもしれない。


「帰る前に下の泉に雨を降らせてくれない?それを頼みに来たんだ。さっき雨を降らせてくれただろ?オレとフレイルーナ達で歌って踊った後に雨が降って大騒ぎだった」

「踊ったんだ。どうだった?」

「楽しい!歌って踊って気が高ぶって、それを一杯貰った。そうしたら雨が降って、さらに気がぶわっと膨れ上がって」

 下ではフレイルーナという人達が今も歌って踊ってるらしく、よく耳を澄ませば微かに音が聞こえてきた。


「フレイルーナ達は雨が降ったから、しばらく滞在することになったんだ。オレもまた戻る約束をした」

「でも私、うまく雨を降らせることが出来るかしら」

 泉の側にいる人たちは先ほど降らせた大雨でびしょ濡れのまま夜を迎えるのだろうか……。

「リンがここを去れば泉は枯れるかもしれない。さっきの雨が降っても、もう水は少なかったから」

 不安になっているとアークが声をかけてくれる。

「俺も手伝うよ」


 答えの出ないお話は一旦止めにして、明日の陽が高いうちに雨を降らせてみるということでまとまった。

 そこからはナディの歌と踊りの話を聞いていると、見たことのない獣が二頭現れた。白くて大きくて綺麗な生き物。

 白い生き物、虎はアルとロックというらしく、当たり前のようにナディの側で体を丸めた。

「実は少し寒かったんだ」

 アークもロックの毛皮に身をうずめた。そして私に手招きをする。

 ロックにお伺いを立てると体に触ることを許してくれたので、寄りかからせてもらった。ごわごわして、ふわふわして温かいお日さまの匂い。

 アルの方は何故かアークに悪態をついていて、これ見よがしに、ナディへすり寄っているが、気は悪いものではなく思わず笑ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る