虎神様 続続

「そんなナディが成長して、また訪ねて来てくれたのは最近じゃ。パールにも会えた。かわいらしかったのぉ」

 そう言って老師は目を細め、ナディを一旦見つめてから僕の方に向き直った。

「どうやら儂は虎神様に縁があったみたいじゃ。お前さんも竜に縁があるんじゃろ。縁は大事にしないとな」


 縁といえばそうなのかもしれない。二人には話していないが、他の竜、コハクとマナシにも会っている。

「俺、竜とはずっと一緒に暮らしていたんです。家族で、それが当たり前で……それは縁なのでしょうか」

「竜神様はおとぎ話の存在だ。ナデイと会ったことだけでも奇跡と言っても良い」


 老師はそう言うが、霧の山でマナシとアリョーシャに会ったことについては、彼らの山を荒し、無理やり竜を探し出そうと住処を詮索して二人に嫌な思いをさせただけだ。

 ……気になることは他にもある。

「あの、竜は神様なのでしょうか」

「儂は、虎神様のお二人を一目見た時、あの尊いお姿、神々しい雰囲気、まさに神様だと思った。実際、儂と婆様は命を助けられた。その虎神様は竜でもあった。神様じゃよ」


 マフ老師は言い切ったが、今まで黙っていたナディは反論があるようで言葉を挟んだ。


「オレは竜だけど、命を助けられたというなら、オレ達は爺ちゃんに助けられている」

「それとこれとは別じゃ。儂はただの人間で虎神様のお力になれるなんて誉れじゃ」

「でもオレ、人間みたいに家も街も作れないし……」

「人と竜を比べるべきではないぞ。さて、さて、少し話すぎてしまったな。もう寝るとしよう」

 ナディはまだ続きを話をしたかったようだが、確かにすっかり遅い時間だ。老師には先に休んでもらい、部屋を片付け灯りを消した。

 

 先に寝台に潜りこんでいたナディに話しかけてみる。

「ナディは、ナディの両親は神様なの?」

「アークの言う神様ってなに?」

「んー。願いをかなえてくれたり、困った時に道を指示さししめしてくれる方かな」

「なら、オレは違う」

「そっか。老師は竜を神様みたいに話していたけど、俺の探している竜、リンは人間として生活してたんだ。雨を降らせることができたけれど、敬ったり、恐れ多いとかそんなんじゃなくて、家族だったんだ。いつも人の姿で過ごして、ご飯を食べて、スープとシュワシュワが大好きで、夜は竜の姿で眠っていたけど、ただそれだけだったんだ」


「リンがその暮らしをしていたのなら、それで良いんじゃないか。オレも誰かの願いは叶えられないし、虎はオレ達と一緒だと人を襲わないけど、旅人の安全の為に暮らしていた訳では無いから」


「そっか。俺、竜の事をほとんど知らないんだ、たぶん家族も。ずっと一緒だったのにリンが空を飛べることさえ知らなかった。竜が何者かということを考えもせず、知ろうとしなかったんだ。イーサが亡くなった時、番を亡くした竜は長く生きられないことも知らなかった。もしかしたら、リンは俺たちのそんなところが嫌で出て行ったとしたとしたら、もう二度と会えないことを覚悟しないといけないのかな」


 ずっと心の片隅で思っていた事を口に出すと感情が高ぶってしまい、うっかり目から水が溢れあふれてきたので、誤魔化す為に鼻をすすった。

 ナディからは返答は返って来ず、寝息だけが聞こえてきた。

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