行商
「二人とも今日は時間あるか?薬屋を紹介してやるよ。薬草を試してみて効果があればまた買えるようにしてくれると有難い」
ギヘイさんは下舟するとき声をかけてくれた。
ここまでは旅の疲れを見せず、乗舟時もピンピンしていた爺ちゃんは下舟時には真っ青な顔で返事ができなかった。
「爺さんの方は船酔いだな。今から丁度薬屋に行くから坊主と薬を買ってきてやるからここで少し休んでな。風に当たるといいぜ」
少し心配だったけど、ギヘイさんは時間が経てば治ると言うので、爺ちゃんには休んでもらって、一緒に連れて行ってもらうことにした。
「なるほどね。痒みの治療ではなく、痒くならないようにするための薬草か。油紙と一緒に巻いて、脱いだあとの靴の方にも入れて置くのはどうだ?」
「ですね。匂いが気になるのでしたらこの粉が消臭効果があって、香りがするこれと組み合わせて…」
『トレール』の薬屋の店主は相談に乗ってくれた。以前からギヘイさん達、舟屋さん達の足の悩みに御用達のお店で、効能の相性が良さそうな薬草の組み合わせに話が弾んだ。
「一つ先の街『フルーゼ』で交易が盛んなんだ、だから皆そっちへ行っちまって、在庫が少なくなってたから助かるよ」
主に使う薬草はこの辺ではあまり採れないらしく、他の薬草と一緒に、いつも卸す値段より高値で買ってもらえた。
「それと、爺ちゃんの具合が悪いので船酔いに効く薬はどれでしょうか」
「舟を降りた後に薬を飲んでもあまり意味はないな、明日の乗船前に飲むんだ」
やはり時間が経つのを待つのが一番良いとのことで、おすすめのの薬を買うことにした。この町で一番の売れ筋商品らしい。
「近くに来たらまた寄ってくれ、薬草の組み合わせの効能も見ておくよ」
と言われて店を出た。荷物は軽くなったし、お金が入った。
また寄って良いと言ってくれて知り合いもできた。初めての行商がちゃんとできたことにほっとした。
舟着き場に戻り、ギヘイさんは
「じゃぁな、仕事に戻るわ」と言って舟を川から引き揚げて街道に向かって曳いて行った。
風に当たっていた爺ちゃんは少しだけ良くなったみたいで、途中で買った果物にシュワシュワの粉をかけて渡すと一口食べてほっとした顔になった。
僕も一緒に食べ、口の中がさっぱりして落ち着いた。
明日の舟は午後に出るからしばらく休めるから心配無いだろう。
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