砂漠の嵐と雨

 オレンジ色の朝日が砂を同じ色に染め、夜明けと共に一日が始まる。

少し顔を出した太陽は、あっと言う間に高く輝き、そこからは灼熱の時間だ。


 ナディの竜の力で陽射しを弱めてもらっているが、早めに木陰を見つけ休憩する。

 日が傾いてくる頃にまた歩き出し、進めるだけ進むが、すぐに砂は暗く染まり、濃紺の空に明るい星々が輝きだす。夜はひたすら体を休め、二人と二頭で寄り添って眠った。

 そんな日々を繰り返し、泉を目指して果実漬けをかじりながら熱い砂を踏みしめて歩き続けると足の裏がべろべろに剥け始めた。

それでも、ぬるっとした足の裏に砂漠の民の万能薬を貼り、包帯をきつく巻きつけ歩き続けた。

 

砂嵐にも何度か遭遇した。

 視界は無くなり、焼けている砂が混ざっているのではないかと思う空気の中、息をするのも億劫で、そんな日は一歩も動かずに只々じっとしていることしかできなかった。

 

 ナディの道案内で出発した砂漠の旅路だが、進むにつれて自分でも行くべき方向がなんとなく分かるようになった。

 今では進めば進むほど行先に迷いがなくなり、この先にはリンがいる確信が持てる。

 だから油断していたのかもしれない。


 最初は小さな音を聞いた。

 暑い陽射しのチクチクとしたトゲのような空気の中、急に一筋の冷たい風が吹き少し遠くに黒い雲が見える。

「雨だ」

 恵みの雨だ。

 砂漠で遭遇する初めての雨。進む方向にリンがいるという高ぶった気持ちが判断を誤らせた。


 すぐに黒い雲の方向になにも考えずに駆けだす。

 ナディがなにか言っているが、降り出した大粒の雨と強い風でかき消されていく。虎達も駆け出し、砂の山をどんどん登っていく。

 風は強く、大粒の雨は少し痛いが気持ちいい。

 前方の砂山を登り切ったアルとロックは体を震わせて雨を楽しんでいる。

 俺はもうその場で荷物をおろし、雨を堪能しようと空に向かって手を広げると、先に砂山を登り切っていたナディが急に戻って来た。

 折角降ろした荷物を雑に担ぎ、再び砂山を駆けあがる。同時に俺の体を横から強引に抱え一緒に引き上げられた。

「ちょ……どうしたの?」

「登って!!」

 足を砂に絡ませながらナディに力強く引っ張られる。

 とりあえずは、されるがままに足もつれさせながら一緒に砂を駆けあがった。


 砂山を登り切り、しばらくすると音が聞こえた。

『ゴッ』

 なにかが堰を切ったような音と震動が響いた。


 雨を堪能しようと先程までいた場所は何故か濁流にのみこまれている。一瞬だった。

そのまま立ち尽くしているとすぐに空は明るくなり、なにごともなく太陽が輝いた。


 虎達は砂山の上で雨を楽しんだようで、ブルブルと体の水滴を払っていた。

 状況がよく理解できずに、ただ泥にまみれたままでいると「雷が落ちなくて良かった」とナディは口にする。

「雷?山がないのに砂漠でも鳴るの?」

「鳴るというか落ちて広がるんだ、あれはどうすることも出来ないから近づいたら駄目だ。それから、雨が降ったら低いところにいるのも駄目だ。高いところへ走れ」

 そうか、今のは鉄砲水だ。砂漠で鉄砲水に遭遇するなんて……。

あんな一瞬の雨が命取りになるとは思いもしなかった……。

 ナディに命を救われたことをやっと理解してへたり込んだ。


 泥だらけの衣類をまとっていると、忘れていたお風呂に入りたい気持ちが湧きあがってきたが、幸い陽はまだ高い位置にあったので、ぬるく体に張り付いた旅の装束は地面から立ち上る熱気で程よく乾き、泥はすぐにパラパラと細かい砂に変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る