霧の山

 テオとテルマ、ペータは学園に通い出し、それぞれが合間にできる仕事を見つけて生活が動き出した。

 それに加え、テオとテルマは本当にお互いの授業を全部教え合い、工作物を作ったり薬草を育てたりもしている。

 皆で食事を作り、家の補修をしたり、忙しくしている。

 休日は交代でアイスクリームを作り、売りに歩いたり麓の食堂に置いてもらったりして、なかなか好評で良い稼ぎになっている。


 僕の方も学園での仕事を終えた後は、日が暮れるまで裏山に入り、手がかりを探し歩き回っている。

 霧が濃いため、なかなか進むことが難しいが、草を刈り、目印に紫の花を植えながら徐々に道を作り捜索範囲を広げて行っていった。

 リンや竜への手がかりはまだなかったが、探索する場所が明確にあり、へとへとのどろどろになっても家に帰ると忙しくも賑やかに三人と暮らすことは、目的地も分からず彷徨い歩いていた頃に比べるとずいんぶん心地良かった。



 ある休日、一日中裏山を散策し、陽が暮れてきたので家に帰る途中でミルヒ先生を見かけた。

 その場所は少し開けていて、山側は煙っていても街の方を見る分にはとても見晴らしが良い場所だった。


「ミルヒ先生、こんな場所でどうしたんですか。陽も暮れてきて危ないです。一緒に戻りましょう」

「あら、こんばんはアーク。ワタクシ昔は良くこの山で遊んでいたのよ。ここは庭みたいなものだったわ」

「過去形じゃないですか。この山、人が入っている形跡が無かったのですが」

「昔は道があったのよ。特になにがあるってわけではないけど、子供たちの遊び場で、ワタクシも探検したりして遊んだわ。キノコや山菜も採れたのよ」

「山菜は時期が過ぎてしまいましたが採れました。でも、もう道は無くなってました。今は山には入っている人はいないのですか?」

「霧が出ているでしょ。危ないから今は誰も入らないわね。アークは何をしていたの?」

「ヤギの飼料に草を刈り集めたり、家の補強に木材が必要だったりするので。それよりあの、……霧は昔から出ていたんですか?」

「ワタクシが子供の頃は霧なんか出ていなかったけど、いつの間にか霧が出るようになったわ。危ないから入らなくなって、そのうち道も無くなってしまったのね」

 

 それから少し沈黙してから言い辛そうに言葉を続けた。


「女の子が行方不明になったの。まだ帰ってきていないから、アークも気を付けてね」

 ミルヒ先生の表情を見る限り、その話については質問できるような雰囲気ではなかった。

「暗くなってきたし、先に帰るわね」

 危ないから送ろうかと思ったが、ミルヒ先生はさっさと足早に下っていったので、なんとなく少し時間を置いてから一人で戻った。


 いつもならヤギのミルクを飲みながら、世間話に最近食べた美味しい物の話などをしていくはずが、今日は家にも寄っては行かなかったみたいだ。

 なにか知っているかもしれないが、話したくない事なのかもしれない。

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