手紙
やっとたどり着いた『ドーラ』の街は規模としては大きくないが、街道の周りは活気があふれていた。
まだ陽も高いうちから酒場は外までテーブルを広げ、皆気持ちよさそうに杯を飲み干している。人通りも多く、大量に買い物をしていく人や、大きな荷物が積まれたロバが隊列を組んで歩いている。
雰囲気に圧倒されながらも、ミルヒ先生の教え子ザジさんを探そうと近くの店主に声をかける。
「すみません、ザジさんという方をご存じでしょうか」
「ザジのお店で買い物するなら、こっちで揃えていきな」
客と勘違いされてしまった。
お店は品揃えが変わっていて、いろいろ砂漠の旅に役立ちそうな商品の説明をしてくれる店主の話が興味深かったが、早めに話を切り上げてザジさんの居場所を教えてもらった。
「いろいろ揃っているからまた来てくれよな」
ザジさんはこの街の外れに店を構えていて、この店とは商売敵だった。
店主から教えて貰った場所はすぐに分かった。
『砂漠へ入る前の最後のお店です』と書いてある看板が立て掛けてあった。
店の中は涼しく静かで埃の匂いがした。
「こんにちは。誰かいらっしゃいますか」
しばらく待っても誰も出てこないので、店の中を一周りしてみる。
先ほど道を尋ねたお店とほぼ同じ品ぞろえだったが、料金は五割り増し位高い。このお店と店主は大丈夫かなと少し思った。
それと綺麗な刺繡がしてある布が置いてある。刺繍は知っているけど、こんなに豪華で
「いらっしゃい」
「あの、ザジさんですか?ミルヒ先生の使いで来ました」
「おぉミルヒ先生の使いか。待ってたぜ」
ザジさんが差し出してきた手を握り返して、自己紹介をする。
「手紙を預かってきました」
手紙を渡すと、ザジさんはすぐに親指に唾をつけ、封から出して読み始めた。
一通り読み進め、その中から三枚を手渡してきた。
「これはお前宛の手紙だな」
ミルヒ先生とは、お別れの挨拶も仕事の引継ぎも終わったはずと思いながら目を通す。
※※※
アークへ
無事ドーラの街に着いたかしら?
この手紙は私が調べた砂漠での注意事項を改めて書き記しておきます。
ドーラは砂漠に入る前の最後の街だから準備してから出発すること。
砂漠では陽の暑さで病気になるそうよ。
対策は涼しくすること、お水を飲むこと。
もし、動けなくなった時は、とにかく体を冷やしなさい。暑いけど服は脱ぐのではなく、日を遮るために体を布で覆いなさい。
それから、あなた達が漬けた二種類の果実は、ザジに頼まれて作った砂漠での旅の携帯食よ。砂漠でかかる病気に効き目があるように考えて作ったわ。
自分の分は確保して残りはザジに渡してちょうだい。
値段の交渉はあなた次第よ。あなたは自分の労働力を安売りするところがあるわ。
あなたがが果実を採って、漬けるのに費やした時間、運んだ労力も考えて代金を貰いなさい。
果実だけど、食欲が無い時にも手軽に食べられるように、砂糖がついた甘い方は腹持ちが良いように作ったわ。
塩に漬けた方だけど、こちらが重要よ。
出発の時に渡したおにぎりはどうだった?中身はこの塩漬けの果実よ。
砂漠で暑さにやられた時、この果実の塩漬けを食べて水をゆっくりたくさん飲みなさい。
人間の体には、お水の他に塩が必要なことはあまり知られていないわ。
それに口の中がさっぱりするから、食欲が湧いて疲労も回復すると思うわ。
あと、食べ物を長持ちさせるのにも効果があるので、他の食べ物と混ぜたりするのもおすすめよ。
これを朝と、昼に一つずつ口に入れれば砂漠を進む力になると思うわ。
砂漠で水は値が張るわ。もしかしたら、果実と水の交換ができるかもしれないわね。
それから、ザジは狩りも得意で砂漠にも詳しいわ。いろいろ教えて貰えるように頼んでおくからしばらくお世話になりなさい。
では、あなたが無事に目的を果たせるよう祈っているわ。
体に気を付けてちょうだいね。
ミルヒ
※※※
手紙を読み終えると早速ザジさんから話しかけられる。
「結局、こっちの手紙には重要なことが書かれていねぇ。ミルヒ先生には砂漠での旅に滋養強壮が付くような食料をお願いしていたんだ」
長い間運んだ重い荷物を背中から降ろしてザジさんへ中身を見せた。
「甘い方は栄養がたくさんあって、塩漬けの方は砂漠の暑さにやられた時の為に作りました」
ザジさんは味見に一つずつ順番に口に放り込んだ。
「確かに甘い方はお腹にずしっとくるな。しょっぱい方は暑さで動けなくなった時か、砂漠にはもってこいだな」
もぐもぐと口を動かす。
「ん。なんだか後を引くな。まぁさて置き、値段交渉はどうする?お手柔らかにな」
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