砂漠に向かうアレコレ
ようやく獲物を一頭仕留めたことを、ペータ経由で聞きつけたミルヒ先生が早速訪ねてきた。
来るなり、止める間もなく準備していた僕の旅の荷物を漁り始めた。
「お米は粉にしていきなさい。粉にしておいた方が食べる時に水が少なくてすむのよ」
食料についてのアドバイスから始まり、独り言のように説明をしながら勝手に荷物の出し入れしていく。
「砂漠の民はふわっとした布をかぶるらしいのよ。これも入れておきなさい、餞別よ」
他にもランタンに油を足してくれたり、ザックの繕いが必要な箇所を指摘してくれたりと次々と確認してくれた。
「まぁまぁ、鍋が一つも無いじゃないの」
本日一番の大きな声で言葉を発した。なんだか少しわざとらしい。
「ふふっ。でも予想通りよ。テルマ、テオ持ってきてちょうだい」
二人が得意げに手渡してくれた鍋は、小さくてすごく軽い。釣り手と蓋がついていて中には鍋と同じ形の深皿が2枚とカップ、カトラリーも収納できる。
「うわっ。軽いし食器が一緒で無駄がない」
ミルヒ先生が使い方の説明をしてくれた。
「使う前にシュワシュワの粉を水に溶いて、鍋の外側に塗っておくと煤が簡単に落とせるわ」
『重い、汚れる』と敬遠していた鍋を持たない理由が完全に無くなった。それに水を汲むのも容易になる。
「すごい。こんなのがあるなんて」
「さすが俺達だろ?」
「え?まさか、作ったの?」
テオとテルマは肩を組みながら得意げに笑った。
街から街に移動する程度の装備だった旅の荷物は、どこにでも放浪できるような立派なものになった。
そこから、ミルヒ先生はさらに荷物を追加していく。
「ミルヒ先生!多いです!!」
「動きやすさは重要視していないの。あなたたちに漬けて貰った、果実漬けを教え子に運んで欲しいのよ。寄り道せずに、まっすぐ『ドーラ』の街まで行きなさい」
ミルヒ先生の指示で漬けた二種類の酸っぱいを果実漬けをドンと置かれた。
「それから、考えたのだけど、アークはお水を何日分背負って歩けるのかしら?こういった荷物を持つのにラクダが必要らしいわ。砂漠にいる動物らしいのだけど」
砂漠の旅はラクダを買うか、旅の商隊に入れてもらうのが一般的らしい。どちらもお金がかかるが、どの位の金額が必要なのかは調べても分からなかった。
「それにラクダがミルクを出すらしいの。美味しいのかしらね、気になるわ。ラクダのミルクのアイスってどんな味なのかしら」
話しているうちに、興味が別のところにいってしまっているミルヒ先生のお話を、ペータは『らくだ、ミルク』などと一生懸命メモを取っていた。
「そうそう、話を戻すわね。ラクダを買うにはお金がかかるのだけど、この果実漬けを売る段取りをつけたわ『ドーラ』の街に住むザジという人を訪ねなさい。少しは足しになると思うの」
有無を言わさずミルヒ先生主導で旅の支度が整ったので、学園での仕事の引継ぎを終わらし、早々に出発することにした。
**
「家には手紙を出しておくし、リン婆ちゃんのこと頼むな」
「俺とテルマはあと一年勉強してから家に戻るよ」
「アーク、気を付けて。リンさんを見つけて落ち着いたら、オレの家にも遊びに来てくれよな。サキさんも会いたがってた」
「うん。みんな、ありがとう。ミルヒ先生、お世話になりました」
「この手紙をザジに渡してちょうだい。ワタクシの教え子よ。落ち着いたら状況を知らせてちょうだいね。無理はしないように気を付ける事。あなたもワタクシの同僚であり、教え子のようなものだわ。」
先生はお昼にと、お米を握ったおにぎりを持たせてくれた。
それぞれ皆と握手をして別れの言葉を交わした。ペータには抱き着かれ、泣かれてしまった。
「行ってきます」
四人は見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
山道を下り、学園の前を通りかかると、何人かの生徒たちが出て来てくれ、お別れの言葉をかけてくれた。
裏山で手がかりを求めて隅々まで探し道を作り、ドロドロのへとへとになったけれど、家に戻りペータ、双子と一緒に過ごす賑やかな暮らしは楽しかった。
ペータの作ってくれた毎日の料理は本当に美味しくて、食べられなくなることがすごく残念だ。
一人になって街道をひたすら歩いた。寝て、起きて、食べて、また歩いた。
馬車に乗れる区間は本当にありがたかった。
たまには宿に泊まり、洗濯をしてまた歩いた。そんな日を繰り返して『ドーラ』はもう目の前だ。
それにしても、やっぱり荷物が重すぎです。ミルヒ先生……
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