砂漠の景色

 しばらくの間、ザジさんと値段について交渉したが折り合いはつかなかった。


「オマエ、交渉価格に自信がないだろ。顔に出てるぞ」

 見破られてしまった。

 この街の相場も砂漠の様子も、この果実漬けの実際の効果もわからないのだ。

 それに、自分の労働の価値なんて考えたことなかった。


「……分かった、しょうがねぇ。その顔もやめろ。まずはその果実漬けの手間や原価を教えろ」

 交渉を続けなくて良いことにほっとしてしまい、正直に全てを報告した。

 ザジさんは少し飽きれた顔をして、仕方ねぇという感じで懐から用紙を取り出し、ここまでかかった道のりや、果実漬けの重量等を書き込みながら一考した。


「さて、正直俺もこの果実漬けにどの位需要があるかわ分からないから値段をつけ辛い。次の集落まで一緒に行ってやるから試食しながら行くぞ」

「良いのですか?このお店もありますよね」

「あぁ。一応はミルヒ先生の頼みだからな。そこで砂漠の歩き方を教えてやる」

 

 お金を儲けることよりザジさんにいろいろ教えて貰った方が気が楽で、ほっとしてしまった。

 それが顔に出たようで「この分の労力も価格交渉に含めるからな」と付け加えられてしまった。

「明日出発でいいか?今日は泊めてやる」

 

 その晩は二人で口数少なく夕食を頂き、簡素な部屋で一晩お世話になった。

 ぐっすり眠り、のんびり朝食を頂き、日が大分昇ってきた時分にようやく出発となった。


「砂漠は暑いから、朝の涼しいうちに移動するのかと思っていました」

「その通りだ。日の出前の暑くなる前に移動して、昼は休んで夕暮れ前に歩くのが効率が良いが、今回はその果実漬けの効果を試したいから、暑い中歩くぞ」

「水はどの位用意すれば良いですか?」

「次の集落までは半日位だ、そこでも水は汲めるから今日の分だけで大丈夫だ。裏に水場があるから汲んで来い」

 準備をしているとさらに日が昇った。

「あ、果実漬けは全部持って行かなくていいぞ、売る分は置いていって自分の分だけにしろ。俺が持って帰らないといけなくなるから」

 ザジさんの荷物は思ったより軽装で、出発時に頭に巻いた布をきゅっと締めた。


 果実漬けを降ろした分、軽くなった荷物を背負って進みだした。ザジさんの家が見えなくなると、あからさまに視界に入る景色の種類が少なくなった。


 今まで見てきた風景は木があったり、家があったり、遠くに山が見えたり、いろんな情報があったと思う。今、見えるものは真っすぐな線で分けられた空と地面しか見えない。

 森や林、街並みは無くなり、木陰と呼べるものは、ほぼ存在しなかった。

 どのくらい遠くにどのくらいの大きさのものがあるのか、目安や目標がまったく分からない。

 それでも道はあり、砂埃の下にはレンガが敷かれ、ぽつりぽつりとひょろりと天高く伸びたほとんど幹だけの木が生えている。


「この辺りは砂漠といっても、草が生えているだろ。まだ序の口だな」

 そう、確かに背の低い草がまばらに生えているが、その草の表面を砂がサラサラと流れ、道も砂で覆われている。

 その他には青い空、白茶の地面に時々緑色の模様が混じる。そんな景色がしばらく続いた。

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