出発

 アルヴァ叔父さんとも相談をした。

 旅の常備薬として熱冷まし、傷薬、お腹の調子を整えるような薬草類を貰い、乳鉢と包帯で薬師基本セットとして小袋に入れた。


 それから薬草の行商の相談をしようと思った。今回だけではなくリンを探す旅にはお金と薬草の行商は切り離せない。


 足腰を鍛えて大人になって危険を遠ざければ、リンを探しに遠くまで行けると思った。

 今回、母さんが二か月分の給金と言い出さなければ、お金が無いと旅に出れないことには気づかなかった。

 お金を貯めるには職につかないといけない。

 職についたらリンを探しには出られない、それでは結局身動きがとれないだろう。

 この先、旅をしながらお金を工面するには叔父さんに頼るしかない、僕も手伝っているけど薬草の仕事は、叔父さんが仕切っている。


「俺もリンは探したい。でも畑と家と家族を放って、どこにいるかわからないリンを探しにいくのは決心がつかない。大人になるとそうなってしまうんだ、ごめんな」

 叔父さんがそう言って僕の頭にポンと手を乗せる。

「アークが成人してからリンを探しに行くことは、アークの人生が他の人と少し違ってくるかもしれない」

 アルヴァ叔父さんは言うが、僕はそこまで深くは考えてなくてびっくりした。


「リンを探してほしい、でもちゃんとアークが成人してから生活できるようにするのも望むよ、だから出来る限り協力したい。アークは畑の面倒をみているし、薬を卸すのも手伝ってもらっている。でも、すぐに薬草を自由に売って良いとは言えない。だから今回は父さんも一緒に行くし、良い機会だから薬師見習いということで薬草を売ってきてもらえるかな?」


「叔父さんありがとう」

 僕がお願いしようと思っていた提案してくれて感謝しかない。

「リン探しに行くのは頼んだよ」


 収穫して干してある状態の薬草を何種類かまとめて、丁寧に荷物へ括りつけた。効能と使い方は以前から詳細を書き写して覚えているが、見習いという立場だけど『薬師』だと思うと急に不安が沸いてしまった。

「大丈夫だ、ちゃんと見てやるからな」

 爺ちゃんにそうは言われても、なんだか落ち着かない気持ちは拭えなかった。



 いよいよ出発の日になった。

 朝、着替えていると妹のリリスが遠慮がちに声をかけてきた。


「あのね、私ね、お兄ちゃんが旅に出るって聞いて、お腹大事だな、冷やしたらいけないなと思ったの。あとね、お財布も大事だから無くしたり、取られたら怖いなと思って…だからこれを作ったの。あげるね」

 リリスが幅広でポケットがついていた長い布をくれた。刺繍で僕の名前が入っている。


「お腹に巻いてね」

 早速その場で服をを脱いで布をお腹に2、3回ぐるぐる回して端を織り込んで留めた。

 最後にサイフをお腹にしまい込む。お腹と財布を守る安全、安心の腹巻だった。

「ありがとう」

 お礼を言って頭を撫でるとリリスは嬉しそうに笑った。


 テオとテルマも、とっておきを僕に用意してくれた。

 二人の命名するところ火おこし眼鏡だ。

 眼鏡の部分で太陽光を集めて火が付く、持ち手もメタルマッチになっていて夜にも簡単に火が付く。二人で前から考案していたらしい。

 妹も従弟も工夫に溢れていてすごい。便利で荷物も減らせて大助かりだ。


 フィフィ叔母さんは僕の首に手触りの良い布を巻いてくれた、通気性が良いのに温かい。かわいい花柄なのが叔母さんらしかった。


 婆ちゃんは「リンが見つかるかもしれないから」と言ってシュワシュワの粉を持たせてくれた。


 全員に見送られて僕はリンを探しに家を出た。

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