3人の旅立ち

 二人が通うと決めた学校は西方にある『クイン学園』だ。

 船と交易の街『フルーゼ』の湖から船が出ている。テオとテルマは学園へ。

 西へリンを探しに行くことに決めた僕と利害が一致したので、四年間は一緒に家を借り、そこを拠点にしてリン探すことにした。

 季節を待って、テオとテルマと一緒にリリスと作ったたくさんの石鹸を荷物に詰め込んで出発した。


「半年に一度帰って来いなんて言わないから、手紙くらい出しなさい。それとあまり自分を追い詰めないでね。ご飯もちゃんと食べること」

 母さんからは少しの気遣いと沢山のお小言を貰って送り出された。


 テオとテルマの出発した時のはしゃぐ姿は、初めて旅に出た昔の自分を思い出させる。歩き詰めで『ギーパス』に着く頃、二人は疲労と靴擦れでぐったりしているのも、ほとんど自分と同じで笑ってしまった。

「アークが久しぶりに笑った気がするぜ」

「だよなぁ。帰って来てからずっと暗かったしな」

「ボロボロの服で辛気臭い顔して帰って来てなー」

「髭生えてて臭いもひどかったよなー」

「えっ。ちょっと!なんか匂ってた??」

「「ひどい臭いだった~」」

 言いたい放題に言われてしまった…。


「辛気臭いアークとずっと旅するかと思うと、気が重かったけど大丈夫そうで安心した」

 二人して声を揃えた。


 そういえば、故郷に帰って来てから、今までの旅の話をしていないことにも気づいた。

 リンは見つからなかったけど、家を出た後には初めて見たものや、綺麗な景色もあったのだ。それをやっと今思い出すことができた。

 その晩は二人に、二年間の旅の途中にあった楽しいことをいろいろ話して眠りについた。


 そして、急流下りの舟に乗る。

 ここも初めて旅に出た時と同じ行程だ。

 舟に乗り込むと、二人はまたはしゃぎだした。春先の風がひやりと頬をなで、冷たく気持ちよかったが、テルマだけ船酔いをし、すぐにぐったりと口数少なくなった。

 中継点『トレール』で船酔いの薬を買い込み、「ここから先は歩いて行く」と言い張るテルマを無理やり舟に乗せ、また急流を下った。


 西に向かうのに丁度良い稼げる仕事が無いか問い合わせると、薬師として働きながら船に乗せてもらえる仕事が見つかった。

 テオとテルマも助手として一緒に乗れないか交渉すると、ありがたいことに掃除夫兼、助手として二人とも無料で医務室で寝泊まりできることになった。給金も出る。


 湖に係留されている急流下りに乗った舟より百倍位は大きいのではないかと思う船に乗り込んだ。狭い3段ベッドに荷物を置くと、船は湖の流れに沿ってゆっくり進み始めた。


 甲板に出て、景色をゆっくり堪能したかったのだが、すぐに医務室は忙しくなった。

 船酔いの客がひっきりなしに詰めかけ、仕入れた船酔いの薬を次々と処方した。

 助手をしてくれるはずのテオとテルマは、大きな船内と湖から見える景色への好奇心が勝ってしまい、助手の仕事をほっぽり出し、掃除夫としてうろうろ見学しながらバケツを持ち、あちこち綺麗にして回っていた。



「あなたたちとこの部屋はなんだか良い匂いがするわね」

 船酔いの薬を貰いに来たご婦人がそんなことを言い出した。

 ここまでの旅路で、3人で大量の石鹸を運んでいたから、体にも部屋にも匂いが染みついている。


「石鹸なんです。行商もしているのでおひとついかがですか?」

「そうね、良い香りで落ち着くわ。一つ頂ける?」

 一人のご婦人に石鹸をお買い上げいただいた。

 しばらくすると『石鹸を部屋に置いたらよく眠れた』という噂が広まった。


「昨日は気持ち悪くて全然眠れなかったんです、私にも試しに一つください」


 船酔いの薬を求める人と石鹸を買ってくれる人、たくさんの人とやり取りしているうちに船内は石鹸の香りに包まれ桟橋に到着した。

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