再会

「ありがとうな、先生。まさか石鹸が船酔いに効くなんて知らなかったよ」

「お役に立てて良かったです」


 石鹸の香りが船酔いに効いたのかは分からないが、紫の花は気持ちが落ち着く効果があるとリリスが言っていた。夜寝れるようになれば、船酔いも多少は楽になるだろう。


「助手の二人も良く働いてくれたな、船内がピカピカだ。少し上乗せしとくよ」

 有難いことに給金を多めに貰い、石鹸も大半が売れ、当面の生活費に余裕ができた。


 早朝に着いたからなのか、船に乗りこんだ数日前より随分気温が下がっていた。

 街は全体的に灰色の石畳で、建物も石で出来ていて静かな街だった。

 大きい船が湖に数隻停泊し、陸に上げられた何艘かの小型の舟や、魚が干してある。朝早い時間だというのにみんな忙しそうに働いていた。魚を捕っているだろう小さい舟もたくさん浮かんでいた。

 船を降りると、すぐのところに『ようこそ学園都市へ』と看板と地図が設置されていた。

 まずは、入学の手続きをして住むところも手配しないといけない。

 看板のおかげで学校の場所はすぐにわかった。


 学園がある方向に進むにつれ、標高が上がり建物がまばらになって緑が多くなっていく。

 黙々と進むと山の中腹に赤く目立つ建物があった。

 坂を上り門の前まで来ると誰か揉めている。

「お願いします。どうしたらいいですか」

「困ったわね、部屋には入れられないし、動物用の小屋も無いのよ」

 なんだか男の人に見覚えがある……と思ったら、すぐにわかった。同じ位だった背は僕より頭一つ分くらい高い。懐っこい瞳、丸い頬。

「ペータ!」

「……アーク⁉なんでここに?」

「ペータこそ、びっくりした」

「俺、学校に通うこと手紙に書いたんだぜ」

「ごめん、手紙は見てない。入れ違いかな。従弟がここの学校に通うんだ」

 テオとテルマを紹介する。


「なにか揉めていたみたいだけど、どうしたの?」

「それが、この子を寮に入れてはいけないと言われて…」

 ペータはヤギを一頭連れていた。

「家からずっと連れてきたんだ。それで、一緒に寮に入るつもりだったんだ」


 寮の管理をしている女性とペータが引き続き話し合っていると、背丈が僕の胸くらいまでの小柄な白髪の女性がやってきた。

「あらヤギ、珍しいわね。この辺では見かけないからミルクは貴重よ。大事にしなさい」

女性がヤギの体を撫でると、ヤギは目を細めカウベルがカランと鳴った。


「それが寮には入れないと言われてしまって、どうしたら良いか…」

「あらバーサ、広場に置いてあげたりはできないの?」

「ミルヒ先生。放し飼いにしたりしたらフィーネ先生に食べられたりしませんか?」

「たしかに、これは肉ね!フィーネ先生が解体の授業に使って……食べると思うわ」

「ですよね、四六時中見張ってるわけにもいかないし、この子は家族だと言うので、そんなことになったら可哀そうですよ」

 食べられてしまうと聞いたペータはひゅっと青ざめた。

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