新しい暮らし
ヤギが食べられてしまうことを想像したのだろう、ペータはヤギを後ろに隠し、次に続く言葉は出てこなかった。
「あの、他に動物は飼ってないんですか」
「飼ってはいるけど、全部学園の動物で出入りも自由よ、一頭だけこの子のヤギと言っても全員に周知できないわ」
ペータが「オレは外で暮らす…」と小声で言いかけるが、それはみんな聞かなかったことにした。
「ねぇ、バーサ。山の方に動物を飼ってた小屋があったじゃない。そこは使えないの?」
「あそこはもう廃屋も同然ですよ。それに学生さんがここまで毎日通うには遠すぎませんか」
「オレ、山道には慣れていますし、この子と一緒に住める場所があるのでしたらお願いします」
ペータが必死に食らいつく。
「大丈夫そうよ」
「でも、もしなにかあったら危険ですよ、すぐには行けないですし」
「う~ん、そうね。あ、あなた達3人は学生かしら?一人だと心配だし一緒に住んであげられないのかしら?」
「二人は学生で、僕は保護者です」
「あら、保護者がいると安心だわ。四人で住めるくらいには広さはあったと思うから、良ければそうしてもらえないかしら」
「私達もペータと一緒にそちらへ移ってもいいのですか?でも寮費はどのくらいでしょうか」
「そうね、学園長と交渉してみるわ。ここの寮費よりはだいぶ安くできると思うわよ」
テオとテルマの方に目線をやると、二人とも頷いていた。意義は無い。
「ありがとうございます。お願いします」
交渉はまとまり、早速ミルヒ先生が山の小屋へ案内してくれた。
先生はペータが入学する食品製造学科の教師で、山道を登りながらミルクや美味しい食べ物の話でもりあがった。
「ここよ、意外と遠かったわね。ワタクシへのお礼はヤギのミルクでいいわ、小屋は掃除と修繕がいると思うから、それはお願いね」
ヨレヨレの息切れ状態で到着したミルヒ先生が言った。
年配の先生をこのまま帰すのは心配だったが、たどり着いたところで休むイスもお茶もなにもなく、息が落ち着くのを待って、ペータが折り返して学園まで送っていくことになった。
ペータも僕たちも田舎の山育ちで山道には慣れているし、この位の距離なら歩いて通うのはいつも通りだったので問題なさそうだ。
案内してもらった家は、コケやツタが巻き付きいていたけど、小屋と呼ぶには石造りで立派だった。扉や窓は木でできているので、外れていたりボロボロな部分もあるけど釜土もあり補修すれば問題なさそうだ。
4人で過ごすには一般的には少し狭いかもしれないけど、幸い、今まで住んでいた家に比べてもそんなに変わらなかった。
ペータが戻ってきた時間にはほとんど日が暮れていて、家具もベットも灯りも無いまま、手持ちの食料とヤギのミルクを貰って、再会とこれからの生活の先行きを祝し乾杯したが、すぐに真っ暗になり、早めに寝るしかなくなった。
僕は慣れているし、ペータもここまで一人でヤギと旅をしてきた、屋根と床があるだけで充分ありがたかったが、テオとテルマは固い床に埃と隙間風が気になって眠れなかったようだ。
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