リンとアーク
「ところで、ここはどこなのかしら。皆はどこに行ったの?」
寝る前になにをしていたのか思い出せない。ゆっくり考えてみる。
悲しい事があった。その後、ゆったりと優しい気持ちになった気がする。それから久しぶりに空を飛んだり眠くなったり、アークが大人になっていて……。
あれ?どこまでが夢で、どうなったのか分からない。
改めてアークをよく見ると、やっぱり見慣れない姿で服もボロボロで腕に大きな傷があるし、頬も少し切れてる。
「どうしたの、頬が切れてる。腕は治っている傷だわ。なにがあったの?」
「だから、十二年前リンが散歩に行ったまま帰って来なかったから、探しに来たんだ。なにがあったのか知りたいのは僕の方だ」
「え?十二年って、アークはその間に大人になって、腕と頬を怪我したの?な何故そんなに経っているのかしら、ここはどこなの?」
アークは頬の傷を手で拭い、ここに来る前、いろんな場所を探し歩いたこと、砂漠での旅のことを話してくれた。
「大変だわ!そうしたら、みんな心配しているのね。急いで帰らないと。私は飛べるから先に帰るわ。アークは後から来て」
「なに言ってるんだよ!リン。十二年探し歩いてやっと迎えに来たのに、俺に一人で帰れっていうの⁉」
あれ?怒っている。十二年と聞くと長い気がするけれど、私は寝て起きただけで、なんだか実感が無くてよくわからない。
でも目の前のアークはボロボロで辛そうな顔をしていて、怒っていると思ったけれど、泣き出しそうな顔だ。
なんだかその姿をみると私も悲しくなってしまった。
「ごめんなさい。こんなに傷だらけにさせてしまって。私は、どうしたら良いかしら」
アークのまだ少し血が滲む切れた頬をなぞる。
私になにか出来ることがあるかしら……アークが怪我をしないように、悲しくならないように、幸せになってずっと笑っていて欲しいのに……どうしたら……。
アークの手を握りそう思うと力が集まってきたた。なんだか体が温かい。薄く光ってる気がする。
顔を上げるとアークも光っていた。
「リン、光ってる」
「アークも光ってるわ」
私がなにかしたのかしら。
「前に精霊様にお礼をもらった感じに似ているけど、リンも俺になにか力をくれたの?」
「私にはそんな力は無いわ。あげられるものがあれば全部あげたいけど、雨を降らせることしかできないもの」
なんだろう、ぽかぽかする。この感じを知っている、涙が勝手にあふれてきた。
とても懐かしい。
……そうだこれは『絆』だ。
私は昔、父さんとつながっていた。
あれ?今は?アークと繋がっている……。
アークの思いがどんどん流れ込んでくる。
アークが私をずっと探していてくれた。いろんな人と出会い、知り合って助けてもらった。辛いことと楽しいことがあって、そして迎えに来てくれた。
その全てが私にとっても大切に思えて胸がいっぱいになった。
「アーク。私、分かったわ。さっきはごめんなさい。探しに来てくれてくれてありがとう。一緒に帰りましょう」
「そうだよ。一緒に帰ろうリン」
アークが私を迎えに来てくれた。
十二年経ったと言うアークの姿は大きくなったように見えるが、小さかった姿でいつものように笑顔はなにも変わらない。
いつの間にかアークの体も私の体からも光りは消えていた。
「それで、ここがどこか分からないのだけど、アークはどこから来たの?」
アークが指差した先は、降りてきたことが信じられないような険しい岩場だった。
「あそこから来たんだけど、滑り落ちたというか……登れるかな」
「私は飛べるから、ちょっと見てくるわね。マントを持っていてくれる?重くて一緒に飛べないの」
アークに掛けてもらったマントを外して、竜の姿になって岩場の上に飛び上がる。
この場所は、すり鉢状の高くて大きな岩場の上だった。他は見渡す限り砂で、下には水場があった。
「アーク、一旦ここまで登ってから降りなければいけないみたい。それに、ここから下もすごく高いわ。水辺に人が大勢いるみたいだけど、呼べば助けてくれるかしら」
「そこまで登れれば降りる道は大丈夫だと思う。先にそこで待っていて、登るから」
アークはすぐに登ろうと歩み出したが、ふらりと膝をついてしまった。
「アーク⁉」
慌てて、岩場から降りてアークの側に戻る。
「ごめん。ちょっと疲れた。休憩」
そう言ってごろりと仰向けになっているアークのお腹からきゅるきゅると音が聞こえた。良かった。大丈夫みたいだ。
「そういえば、もう日が暮れそうよ。危ないから登るのも降りるのも明るくなってからにしましょう」
アークは『よっ』と言いながら起き上がり、荷物からなにか取り出す。
「リン、お腹は空いている?すぐに食べられるのは蜜と、油と、果実漬けしかないや。鍋はあるけどスープにするには水は……」となぜか地図を広げるとアークの顔から表情が消えた。
「アーク?どうしたの?」
アークは一度目をつぶってから、地図をまた凝視する。
「……泉が見えない」
そう言うアークからとても悲しい気が流れ込んで来た。
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