雨降り竜との物語

おみ

1章:雨降り竜リン

雨降り竜の父と子

「私達は弱い竜だ。雨を降らせることしかできない」


 父は優しい竜で縄張り争いを避け、他の動物を傷つけないよう、狙われたりもしないように痩せた土地に流れ着いた。


 少し前につがいを亡くした父は少し弱ってしまっていたけど、私たちはお互いの優しい気持ちや愛を精気として糧にすることができるので、少しの果物を食べ、ひっそりと雨を降らしながら暮らしていた。


 私と父がそこに移住して雨が降るようになったので、この土地は少しずつ緑が生え、人が来るようになり、やがて村ができ、気づけば父は神竜として崇められていた。

 人々の感謝の念は私たちの糧になったが、私たちを恐れる気持ちが混じった精気が漂い、父の力は段々と弱っていった。


 ある日ふらりとやってきた魔導士がなにか言葉を発し、父をこの地に縛り付けてしまった。

 地に縛りつけられた父と私の絆は切れ、お互いに精気を与えられなくなってしまった。父はそれでも祭壇の供物を食べ、残った力で小さく雨を降らせてくれた。

 父の降らせる雨は暖かく優しく私を育ててくれた。


 そこから何年か経った頃、女の人が一人でやってきた。

 震える女の人は「私を食べてどうか雨を降らせてください」と言った

「私は人間を食べないし、食べたくもない」という父に「でも、もう村には戻れません」と泣き出した。

 父は「あなたを食べたことにして雨を降らせましょう」と言い、女の人の上着を切り刻み祭壇に置いた。そして女の人を遠い場所へ逃がし、力の限り雨を降らせた。


 父の最後の雨はとても冷たかった。雨は三日三晩続いた。


 しばらくしてから、女の人を逃がした方向から果物が供えられるようになった。果物は祭壇のものと違って感謝の気持ちが入っていてとても美味しかった。

 私はその果物を食べ、雨を降らせ父の命を必死で繋いだ。


 そこから数年が経って今度は別の女の人がやってきた。

 女の人は泣き叫び、なにかわからない言葉をずっと叫んだあと、自分で命を絶ってしまった。父は叫び泣いたがもう雨を降らせる力は残ってなかった。


 そして何日か経って村からたくさんの男の人たちがやってきた。

 父は私に「逃げなさい。決して戻ってきてはいけない」と言って一人で村の方へ行ってしまった。

 私は怖くて怖くて、父の言った通り逃げ出した。ずっとずっと遠くに行ってしまいたくて夢中で飛んだ。父の血の匂いがしないところまで…


 そして気づいたら地面に横たわっていた。どこまで遠くまで来たかわからないけど私の体には血がついていた。

 父の血の匂いがしない所へは行けないことにその時やっと気づいた。

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