果実狩り

 ミルヒ先生はいつも強引だ。

 でも、きちんと相談に乗ってくれるし、なんだかんだで困る前に手を差し伸べてくれるので、頭が上がらない。


「その他の事もありますが、とりあえずワタクシが準備しておきますから、必要な時にまた声をかけますわ。あ、それと今、山にっている実を沢山採っておいてちょうだいね」

 先生は自分の言いたいことだけを言い終えると、さっさと僕を追い出した。


  家に戻り、借りた本をめくりながら一考する。

 地図をを確認すると、ここから砂漠まで結構な距離があり、二、三週間はかかりそうだ。

 確かに、事前に調べる時間が必要みたいだ。もしも、すぐに出発していたらひどい目にあっていたのかもしれない。

 

 お金はある程度は貯めていたが、生活の分とテオとテルマの学費の分を差し引いたら充分とは言えないかもしれない。

 かと言ってもお金は急には貯まらない。裏山探索に使っていた時間が空いたので、麓の街で地道に働く時間を増やそう。

 あとは節約をすることしかできない。



 ミルヒ先生の言う、山に生っている実の方はすぐに心当たりがあった。

 この間までは白い花を咲かせていた黄色や黄緑色の果実は、とても良い香りを辺りに漂わせている。だけどそれは、口に入れると苦くて、渋くて、びりびりザラザラして、とても食べられるものではなかった。

 不思議に思いながらも、籠いっぱい採れたものを持って行った。

 

 ミルヒ先生の指示ので、良く洗い、ヘタを取った大量実を二分し、一つはカラカラになるまで干し、熱した砂糖をからめてまた干す。それを繰り返して、ザラザラした触感の乾燥果物になった。

 苦さと渋さはすっかり消え、代わりに甘酸っぱさが口の中に広がった。

 ネチネチと噛み応えがあって、少しの量でもお腹に溜まる。

 

 皆で試食しながら、思い立ってシュワシュワの粉を振り掛けてみた。

「シュワシュワと甘酸っぱさが癖になるわね」

 ミルヒ先生の一言で、追加で実を取りに行き、さらに増量して果実を干した。

  

 もう一つは大量の塩と一緒にかめに詰めた。

 こちらは完成までは時間がかかるみたいだ。



 動物を獲ることについては、思った通り難航した。

 薬草園で家族で過ごしていた時も、動物を獲物として狩ることは無かった。

 動物が苦しむ瞬間をリンが嫌がったからだ。

 それでも、作物が荒らされないように退治する必要があり、罠を仕掛けていたが、動物が罠にかかると一番最初に気づくのはリンだった。

 『暮らしたり、食べるためにはしょうがないと分かっているわ』と言ってはいたが、動物が苦しんでいる気を感じ、大抵その晩には熱を出して寝込んでいた。


 肉にしてしまえば、リンも食べることはできるのだが、寝込むリンの面倒を見て、動物に止めを刺し、肉を解体するのはいつもイーサの役目だった。

 イーサは動物が苦しまないよう、眠る薬を使っていた。


 その頃、通っていた守衛団では、獣を想定した訓練もあったが、基本的には追い払うこと、そもそも遭遇しないこととして教わった。

 なので、動物を仕留めたことはないし、食べるために自分で処理したこともない。

 つまり、薄く知識としてある程度で、実際に狩りができるかどうかは未知の領域だ。

 そこで、同じ山育ちのペータに相談してみた。


「俺の家では、ヤギを襲うような獣は周りには出なかったから、狩りはしたことがないな。でも毎年、冬が越せないような弱っているヤギは、その前に肉にするんだ。解体は手伝っていたよ」

 

 テオとテルマも話に加わって来た。

「罠を仕掛けていたよな。作ってみようか?」

「イーサが作っていた眠る薬も調合してみようよ」


「罠の仕掛け方は分からないけど、薬はの作り方は記録してある」


「でもアークは旅に出るんだよね?ミルヒ先生の課題は、旅先でも動物を獲ることができるかということだから、罠は持ち歩くのに重くて危ないと思うんだ」

 ペータはミルヒ先生の指示は課題だと思っている。

「それに土地に慣れていないと、仕掛けるポイントが分からないと思うんだ」


「んー。そうしたら、弓を作ってみる?ナイフ振り回しながら追いかけるとかは無理じゃないかな」

「弓かぁ。当たりもしない矢を大量に持ち歩くのはどうかと思うよな」

「石は?補充が楽じゃない」

「どっちにしろ当たる気がしないな~」


「魚は?釣りだったら、湖があるじゃないか」

「湖だったら、護岸に糸を垂らしている人が結構いるよ」

 なかなかしっくり来る案は出ないが、一番気楽に始められそうなので、湖に釣り糸を垂らすことにした。

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