虎と兄妹
……痛い。
生きていた。
死んだつもりはなかったけど、目の前に虎がいて、意識が遠くなった記憶があった。
そしてさらに思い返す。
目を閉じる前に光と共に駆け寄ってきてくれた人は、竜の気配がした……。
ぼんやり目を開けると粗末な木の寝台に寝ていて、その気配の主が覗き込んでいた。
「起きた?」
「竜の気配の人……」
「爺ちゃん!爺ちゃん。起きたぞ!!」
目が合う前に彼はどこかへ行ってしまった。
しばらくすると、年老いた男性がゆっくりとした歩調でやってきた。
「ほうほう。起きたか、ついでに布を変えてやろう。気分はどうじゃ」
「あの、よくわからなくて」
なにから話したら良いかわからなかったが、老人は気にも留めず、左腕に巻かれていた布を外すと緑色になった腕が現れた。
「火傷?」
左腕を噛まれたのは覚えている。
緑色はなにかの植物で薬だろう。それを取り去った後の左腕は、記憶にある獣に噛まれたような傷には見えず、火傷のように
「火傷じゃ。まだ最初の処置じゃよ」
老人はすぐに答えてくれると、手際良くとろりとした液を腕に垂らし、なにかの葉を巻きその上に布を巻いた。
ついでにその液体をスプーンに取って、僕の口元まで持ってきてくれた。
口に含む。甘い。蜜と油だろうか。
「あの、虎に噛まれたのは覚えているんですが。どうして火傷が」
「それは、あの子がな気が動転してしまったようでな、焼いてしまったみたいなんじゃ」
側にいた竜の気配の人と初めて目が合った。
同年代位だろうか。黒髪に銀色の髪の束が混じっている、珍しい髪と、よく日焼けした肌で燃えるような瞳だ。顔も姿も整いすぎているが、表情が泣きだしそうだ。
「ごめん。血で、焦って……」
折角目が合ったのに、頭を下げて目線は外れてしまう。
「いえ。助けて頂いたみたいで、ありがとうございます。そうだ!虎は?女の子はどうなりました?」
竜の気配をした人は泣きそうな表情のまま、ちらりと視線を別の場所へ移すと、そこから女の子と虎が一緒に部屋に入って来た。
「虎!!」
体が固まる。
髪色は違うが、竜の気配の男の人と良く似た風貌の女の子は虎と一緒に恐る恐るこちらへ近づいてきた。
「ごめんなさい。あのね、パールが悪かったの。一人で行ったらダメだって母様に言われてたのに、ごめんなさい」
隣に虎が見えるような気がするけど、こんなところにいるはずがない。幻覚だろうか……
とりあえず、幻覚だと思い視界に入れないようにする。
「無事で良かった。でも謝られる理由がわからないよ。そうだ!周りにいた人達も無事だったんですか?」
竜の気配のする男性にも確認する。
「この
どうやら、見えている虎は幻覚ではなかったようだ。
「アルを怒らないで」
パールと名乗った女の子は虎をかばっているが、アルと呼ばれた虎は僕を見つめながら歯を剝いている。
虎の生態や気持ちは分からないが、僕には友好的な感じには見えない。怖い。
でも、パールと男性は虎を大事にしているように見えた。
虎が女の子を襲うと思ったのは僕の勘違いだったのかもしれない。
それに、思い返してみると、自分が殺されなかったことが不思議だ。
「俺、食べられるのかと思ったよ。えっと、その、俺の方も虎を傷つけてごめんね。虎に伝わるかな」
虎は剥きだしていた歯を元に戻し、僕をじっと見つめた後、尻尾を一振りして行ってしまった。
「許してくれたのかな?」
「許すけど、アルは自分は悪くないから、あんたには謝らないってさ」
竜の気配のする男性が教えてくれた。
「そっか。えっと、虎は君達の友達なのかな?」
「そうだよ。アルはパールを探しに来てくれたの」
二人は虎の言葉が分かり、まるで家族のようだった。
「それで、お兄ちゃん、わたしの事呼び止めたでしょ。ご用事はなぁに?」
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