アークと精霊様

 着いて早々、小さな湧き水のある綺麗な庭のテーブルには既にご馳走が並べられていた。

「精霊様が知らせてくれたの。アークが来るって」

 テキパキとお茶を入れてくれる名前も知らなかった少女。今はミスティと同じくらいの年代に見える。


「サキさんに会えたおかげで、リンを見つけることができました」

 着席前に深々と頭を下げるアークに合わせて一緒に頭を下げた。


「まぁまぁ、頭を上げてちょうだい。知らせに来てくれて嬉しいわ」

 私達が「あらあら、まぁまぁ」と言い合っている間、ナディは料理に目が釘付けだった。

 でも私も似たような表情をしていたかもしれない。だって、こんな素敵なお料理見たことがない。

 お花が浮いたお茶に可愛いらしいお菓子。料理からは温かい湯気が立ち上り、香ばしい匂いに胸が膨らむ。


「お腹は空いているかしら。冷めないうちにどうぞ」

 ナディは勧められると同時にお茶を飲み干してから、すぐにグツグツと音が鳴る熱そうな白くてトロリとしたものを取り分けている。アークもパイを口に入れて幸せそうにしている。

 私はまずは果物を頂いた。

「あの時サキが供えてくれた果物も美味しかったし、このお料理もとても美味しいわ」

「張り切って作ったのよ。たくさん食べてね。それにしても、アークの探していたリンが私を助けてくれた竜神様だったなんて思わなかったわ」

 サキは少し元気が無くなった。思い出した昔のことは楽しいことではない……。

 でもすぐにまた明るくアークに問いかける。

「アークは泉の精霊様には報告したの?」

「えっと……」

「精霊様はずっと心配していたわよ。報告してあげて」

「あの。でも……」 

 アークは言い辛そうに、言葉を選んでいる。

 ここまでの道のりでアークは、地図を恐る恐る開き、毎回泉の印を確認出来ることに毎回ほっとしていた。

 けれど、会いたがっていた肝心の精霊様の姿は見つけられなかったようだ。

 私は泉ではキラキラと光る精霊様と呼ばれる生き物を数多く目にした。ここの泉も小さなふわふわとした綺麗な光でいっぱいだ。

 サキに手を取られ立ち上がったアークはぐいぐいと背中を押され、勢いよくそのまま泉に飛び込んだ。

「⁉ごめんなさい」

 サキと慌てて駆け寄ったが、水深は浅い。怪我はなさそうだし、泉の水はさらさらと澄んでいてなんだか気持ちよさそう。太陽がキラキラ輝いて、眩しい。


「アーク……」

「!!」

「私が見える?」


 突然声が聞こえ、いつの間にか泉には輝く精霊が現れた。この光は太陽の反射?色とりどりの綺麗な光をまとっている。

 アークはざぶざぶと水をかき分けながら、精霊様に近寄るが彼女に触れることは出来なかった。

 アークは空を掴んだ手を下ろし、泉にへたり込んだ後、水の中に潜った。それから大の字になって空を見上げながら笑い声をあげた。

 そして起き上がって頭を振り水滴を飛ばして、そのまま泉につかりながら話を始めた。

「見えるよ」

「またお話できて嬉しい」

「もう会えないと思っていた。でも……なんで」

「私もよ。アークはもう私の事が見えないと思ったの。だから、怖くて話しかけられられなかったの」


 精霊様はアークと楽しそうに笑い合っていたのに、ふと私と目が合うと消えてしまった。

「……リンにお礼を言いたいの。家に戻って来たら泉に来てくれる?」

 辛うじて小さな声が聞き取れた。


「え?あ…あのっ」

 消えてしまったのは私のせいかしら。戸惑っていると今度は別の声が聞こえた。


「やぁアーク」

「コハク!」

「リン。僕は君を知っているけど初めまして。ごめんね。アオフジは恥ずかしがりやさんなんだ。僕もアークと楽しそうに話しているアオフジを見たくなかったから、まぁ丁度いいかなって」

「コハク……も精霊なの?」

「僕は君の仲間だよ。土の竜。話すと長くなるから帰って来たら泉に寄ってね」


「あ…ちょっと」

 アークが引きとめても、二人は消えてしまった。

 泉には最初からいた小さなふわふわとした光とずぶぬれのアークが取り残された。


「なんで、また精霊様が見えるようになったんだろう……」

「番になったからでしょ」

 ナディは口をもぐもぐさせながら教えてくれるが、私とアークには、また知らない新しい話だ。

「そういえば、竜と番になった時の話をコハクから聞いたことがある。なんで忘れていたんだろう……。どの種とも意思が通じると言っていた。アルとロックの言葉が急に聞こえるようになったのもそうだったんだ」

「まぁ、オレも番になったことないから、詳しくはさっきのコハクに聞きに行くのが良いと思うよ」


「まぁ、アーク。精霊様が見えなかったの?」

「でもまた見えるようになったみたいです」

 サキさんは泉から上がったアークにタオルを手渡す。

「ずぶ濡れになってしまったし、今日は泊って行ってくれるでしょ?あの時みたいに納屋でなんて言わないで頂戴ね。お部屋も整えたし、まだまだお話を聞かせて頂戴ね」

 サキが急にキラキラした目でいろいろ問いかけてくるので、まだまだ話は尽きなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る