ヤギ飼い

 早朝、ムッタさんの息子ペータ、ポータと五頭のヤギを連れて出発した。

 丸い頬で懐っこく、明るい表情の二人は同年代だったので、すぐ意気投合した。


 行く途中の道の脇にヤギが所々に繋がれていて、それを次々と合流させて合計九頭になったヤギを、時々ポータがお尻を叩いて列に戻したりしながら、大人しく一緒に着いてくる。

 爺ちゃんは、僕が同年代の子と話すのが珍しいみたいで、少し離れたところを歩いていた。


「オレたち二人で、毎日一緒にヤギを連れて山を登って、草を食べさせて戻ってくるんだ」

「もう仕事しているの?すごいな。僕も家の手伝いはしていたんだけど、お金を貰ってお客さんと話したりしたのは最近なんだ」

「アークはもう薬師としてやっているんだろう?昨日父さんが大したもんだって褒めてたぜ。オレは春になったら学校に行くんだけどアークはもう通った?」

「僕は六歳から九歳の時に通ったよ」

 学校は簡単な読み書きと計算、身の回りのことや歴史などを教えてくれる。三年ごとに開校していて四歳~十五歳の間、いつから通い始めるかは自由だ。


「緊張するなぁ。この辺子供いないんだぜ、ポータとオレだけ。学校どうだった?」

「僕の時は他の生徒がわりと年上だったから、仲良くしてもらったけど、友達って感じにはなれなかったよ。遊び相手は妹と従弟で、あとはお婆ちゃんみたいな人といつも一緒にいた」

「お婆ちゃんみたいな人はオレとポータにもいるぜ、今から家の前を通るから紹介してやるよ」


 丁度、道の先に赤い屋根の家が見えてきた

「サキさーん」

 ポータが手を振りながら駆け出した。行く先には大きい犬がいて、元気にじゃれついている。

「サキさんオレらに毎朝おやつくれるんだ」


 白髪に薄い紫が混じる髪の短い、と思ったら襟足だけ三つ編みにしている上品そうな女の人だった。ゆったりとした真っ黒い服を着ている。

「おはようペーター。珍しいわねお友達?」

「おはようサキさん。アークだよ、後ろから来るのがサニー。この辺に用事があるみたいで東の方から来たんだって。用事が済んだら一緒にチーズを作るんだ」

「初めましてサキさん。アークです」

 爺ちゃんが小走りでかけ上がってきた。

「おはようございます、ご婦人。サニーです」

「サキよ。この辺に用事なんて珍しいわね。なにかあるのかしら」

「赤い屋根の家と泉を探していまして、ムッタさんにお聞きしたのですが、庭に泉があったりしませんか」

「泉?あるわよ。自慢の庭なの、見ていく?」

 思いがけずに順調にたどり着いてしまった。


「兄ちゃんそろそろ行こう」

「じゃぁなアーク。オレたちまた夕方ここを通るから、用事が終わりそうな目途を後で教えてくれな」

 さらに2頭のヤギを合流させてペータとポータは山に登っていた。

 犬は途中でこちらに戻ってきて、ワンと一度だけ鳴いて庭の方に行ってしまった。


「早速庭を見せてもらっても良いですか?」

「どうぞ、こっちよ」

 庭はサキさんの自慢するだけあって、すごく綺麗で整えられていてた。


 精霊様の泉を通して見上げたここの景色は、赤い屋根と満点の星空が見えたけど、今の時間はお花と空が広く見えて、近隣のペータ達の住む、なだらかな景色が一望できる。

「うわぁ」

 思わず声が出てしまう、しばらく見とれてしまった。風が気持ちいい。


「お茶でもどうかしら。ペータ達にも持たせたお菓子もどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

 いつの間にかサキさんが庭のテーブルにお茶を準備してくれた。爺ちゃんと勧められたイスに座った。

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