旅路の報告

 ぐっすり寝た後、熱はすっかり下がり、爺ちゃんとコハクを訪ねた。

 鱗と紫色の花を見せる。


「これは竜の鱗で合ってるよ。でも力がまったく残っていない。普通は力尽きた場合でも、少しは力が残ってるはずなんだ」

渡した鱗をキラキラ傾けながらコハクは言った。

「雨降り竜だったら、これ一枚で三日は雨を降らせられるんじゃないかな」

「雨を降らし終わった鱗はどうなるの?」

「消えて無くなるよ。普通はゆっくり時間をかけて世界に還っていくんだ」

 コハクは鱗を隅々まで見て、次に紫の花を手に取った。

「その代わり、こっちのお花は竜の気配がする。アオフジが泉から感じとった気配はこれで間違いないと思うよ」

「この花を植えたら雨が降ったりするの?」

「気配はするけど、この花をどう使っても雨を降らせることはできないと思うよ。そもそも、竜の気配のする花も、力が残ってない鱗も初めてだから分からないけど、とりあえず花は育ててみたら?」


「そうしてみよう、家の前に空いてるところあったろ」

 爺ちゃんは日当たりの良い場所を提案してくれた。

「その花が竜と同じだとしたら、想いで育つかもしれないよ。大切にしてあげて」

もちろん、そのつもりで頷いた。


それと、精霊様にも相談がある。

「教えてもらった水源だけど、実際の場所はちょっとした茂みに隠れていたりしていて、全然見つからないんだ。泉を見つけるコツとかあったら教えてください」


「人には難しいかもしれない。少し地図を貸して…」

 アオフジは地図をじっと見つめて、手をかざした。地図は一瞬透き通ったあと、水の波紋のような模様が浮き出て広がった。

「これ、水源が近いと分かるようにした」

「ええっ」

「そこから地図を見ながら歩いてみろ」

 爺ちゃんに言われて、歩きながら地図を見ると水の波紋が広がっている、離れていくと波紋はゆっくり、だんだん大きくなっていき、ある程度離れると波紋は無くなった。泉に近づくと細かく波紋が湧き出る。

「水源がわかる地図だ……」

「それは国宝級だな……。アーク、これは絶対に人に見せたらだめだ」

「うん。アオフジ、ありがとう。大事にするよ」



「紙に力を移すなんて、流石さすが僕のアオフジ」

 横でコハクが、何故か得意げに大きく頷いている。

「僕もやってみたいな。紙を頂戴」

 一枚渡すと、コハクは紙に手を当てて鼻息荒く、「ふんっ」っと言った。返却された紙は見た目はなにも変わっていない。

「どうやって使うの?」

「こっちを側を下にして地面に置いてみて」

 見た目はどっちも同じだから表に「上」、裏には「下」と書き込んでから地面に置こうとした。

「ああっ、待ってここに置かないで。泉になんかあったら大変だ」

「えっ、これを置くとどうなるの?」

「どんな固い地面でもサラサラになるよ」

「それじゃあ、紫の花の畑を作るときに置いてみるね。どのくらいの範囲に効果あるの?」

「この泉位の大きさ」

 この泉位の範囲だったら、これから花を植えるのに丁度いいくらいだ。

「深さは三倍位だけど……」

「……大穴すぎるよ。怖くて使えない」

「ごめん、ちょっと加減を間違えた。なにかの時にでも使って」

「なにかって……」

「土の上に置かなければなにも起きないよ。人に貼っても大丈夫だからさ」

 この紙で、家の一部屋分くらいはサラサラになると思う……。

 なにかに使えるだろうか、使い道は思いつかないまま腹巻財布にそっとしまいこむことにした。

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