帰宅
『ワサー』の街を通り過ぎ、慣れた道を足早に登る、土の匂いと草花の匂い、久しぶりの我が家だ。到着したのは日暮れ前にもかかわらず、珍しく家族が全員揃っていた。
旅の報告を兼ねて早めに夕飯にしようということで、軽く荷物を片付けて食卓についた。
まずは、お土産のチーズを出した。皆、思った通りの笑顔で喜んでくれた。
アルヴァ叔父さんは一口食べた後、一旦席を立ちワインを開封した。
皆、僕と爺ちゃんが無事に帰ったことを喜んでくれた。
けれど、リンが見つからなかったことを報告をすると、一様に浮かない顔つきになってしまった。
見つけた鱗と紫色の花が手がかりになるかは、いくら考えてもわからなかったので、明日コハクに相談に行くことにした。
それから旅の話をした。
いろいろな動物を見たこと、いろいろな人に会ったこと、チーズや餅の話、初めて見た水車や舟に乗ったこと、湖が大きかったこと。話は尽きない。
暗闇がとても怖かったこと、焚き火の失敗も報告をした。
「爺ちゃんも一緒なのに、初めての野営の夜は焚火が上手くできなかったよ。消化用の水も用意できないし、次々と虫が飛び込んでくるんだ。一晩中だよ!地面は濡れていて休めないし、散々だったよ」
「乾いた薪を常に持ち歩くのも大変だろう、細い物から先に燃やして乾かしながら準備するんだ」
「虫が苦手な香草があるからそれを一緒に燃やしたりするのはどうだろう」
アルヴァ叔父さんが助言をくれたり、父さんと母さんが必要なものを考えたりしてくれた。
夢中で話しているうちに夜が更け、大人達がほろ酔いになったところでお開きになった。
久しぶりの自分のベットはふかふかで最高の寝心地だった。
その日、夢を見た。
一面、紫色の花が咲いていた。
空気も空も薄桃色で、気持ち良い風とリンの匂いと紫色の花の香りが混ざってふわふわと漂う。
綺麗でなんだかほっとする景色が続き、進めば進む程リンがいる確信が生まれ、どんどん進んでいける。
すると、思った通りリンを見つけた。人間の姿だ。いつもの白いさっぱりした服を着て
雨が降ってきた。いつものリンの優しい雨だ。
少し小走りで駆け寄ったが、おかしい。何故かリンにはたどり着けない。すぐそこにいるのに。
気づけば全力で走り出していた。息が苦しいのに、手を伸ばせば届きそうなのに、リンにたどり着けない。
辺りはいつの間にか闇に包まれ、心地よかった雨はどんどん強くなっている。痛い。
「リーン」
叫ぶと、リンだった形はどんどん崩れて行った。
足元はぬかるみになり、やっとの思いでたどり着くと、リンの鱗だけが数枚残っていて僕と一緒に泥に沈んだ。
ああ…分かっている。これは夢で罪悪感だ。
今回の旅でリンは見つからなかった。
見つからなかったのに、もっといろんなものを見たい、いろんな物を食べたい、いろいろ知りたい、旅は楽しいと思ってしまった。
でもこれは、リンがいなくならなかったら知ることはなかった。
泣きながら眠り、気づけば夕方だった。
「お母さん、お兄ちゃん起きたよ」
目が覚めると、リリスがそばにいてくれて母さんを呼びに行ってくれた。
「大丈夫?疲れが出たのね。昨日はいろいろ興奮してたから。知恵熱かもって父さんが言うし、様子をみてたの」
そう言いながらスープと薬湯を持ってきてくれた。
イーサ叔父さんが、よく風邪をひき初めに作ってくれた定番の『風邪に効くスープ』それは、あの頃の味と同じだった。
起きても涙が止まらなくて、誤魔化す為にまた眠った。
母さんとリリスはなにも聞かないでいてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます