馬車

 早朝、三台の馬車がひとかたまりになって出発した。

 一台は乗客用で、二台は荷物が積んである。満員の馬車は整備された街道をゆっくり進む。

体を伸ばせないのが少し窮屈だけど、爽やかな木漏れ日の中、順調に進んでいき、昼には軽食が配られ、夕暮れ前には途中の村に着いた。


「村で宿を取れるけど、馬車で寝てもいいぜ。どうする?」と声を掛けられた。

 他の五人のお客さん達は宿で寝るようで、迷わず馬車を降りて行った。

 正直、ふかふかのベットは少しうらやましい、でも僕と爺ちゃんだけが、お言葉に甘えて御者さん達のキャンプに混ぜてもらった。

 晩御飯はお餅が入ったスープが振舞われた。


 三台の馬車は御者さんの他に、二人の男の人が要所要所で露払いをしたり、馬のくつわを曳いたりしていた。馬車の護衛、夜番の見張、コックや雑用、街に着いたら荷物の積み下ろしをする忙しそうな仕事だ。


「俺たちは兄弟で、出稼ぎが終わってこれから故郷に帰るんだ」

「この仕事は路銀も減らないし、護衛費を貰えて安全に帰れるもってこいの仕事だ」

 すっかり御者さんたちと仲良くなり、旅の節約術や移動しながらの稼ぎ方を教えてもらった。


「守衛団で研修を受ければ、馬車の雑用係や護衛として雇って貰えるし、街道外の地図情報を買い取ってもらえる、郵便物の運送も請け負えるからまずは成人したら守衛団に旅人登録すると良いぞ」

「父と母が守衛団で働いているのですが、まったく知りませんでした。帰ったら聞いてみます」

 

「私が旅をしていたころは四十年も前だけど、その頃はたまに盗賊が出たという話を聞いていたから心配していたんですが、今はどうなんでしょうか」

「今時は、馬車を襲うより、ちゃんと働いた方が平穏に暮らせるから盗賊は大分少なくなってきたな。でも用心はしているから任せてもらっていいぞ」

 「少し昔の生活が貧しい時代だったら街道も整備されていなかったし、良い時代になったな」と爺ちゃんや年配の御者さん達はしみじみとうなずく。


「平和になったから旅にも出れるし、出稼ぎにも来れるしありがたいな。爺さんと坊主はこれからどこに行くんだ?」

「僕たちはこのあたりに行きたいのですが」

 地図を広げて教えを乞う。

「『ガルテン』の街までは街道で馬車で行ける。この馬車にあと二日乗って、乗り換えて二日だ。その先は自分の目で確かめながら行くしかないな、近い町で詳しい人を見つけて聞くのが一番いいけどな」


 良い情報をたくさんもらって『バーケン』で馬車を乗り換え、さらに二日揺られて『ガルテン』にたどり着いた。


『ガルテン』の街から先は、街道が整備されていない道を進む。まずは御者さん達のアドバイス通りに街の様子を見て回って、誰かに話を聞くことにした。

 と言っても人が大勢いる。誰にどのタイミングで話しかけようかとドキドキ、キョロキョロしていると、爺ちゃんは馬車を降りてすぐの人に話しかけ、さっさと進んで行く。たどり着いた先は雑貨屋だった。


 店では男の人が店番をしていた。

「こんにちは。ハーさんはご健在ですか」

「少しお待ちください。父さんお客さんだよ」


「はい。どういったご用件でしょうか」

「ハーさん、お久しぶりです。お元気そうで良かった、サニーです」

「サニー!!久しぶりじゃないか、30年、いやもっとだな。あの時探していた二人に無事は会えたのかい?」

「はい。あの後に会えまして、孫です」

 爺ちゃんは、ハーさんを昔お世話になったと人と言って紹介してもらった。


「心配していたんだよ。会えて、見つかって良かったな。孫までいて…」

 ハーさんは「良かった良かった」と爺ちゃんと僕の手を代わる代わる握った。

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