幕間:リリス
リリス
「俺、もっと勉強したい。テオと一緒にいっぱいなにか作りたい。今の学校に通い終わっても、その上にまた学校があるんだろ?一緒に行こう」
「いいね!行こう」
テオとテルマが楽しそうに話している。二人はもっと勉強したい、上の学校に通いたいという気持ちが沸き上がったみたいだ。
上の学校はこの辺りには無い。
もっと勉強したい人は、好きなことを専門的に学べる学校があるということを先生が話していた。
その場所は家からは遠いどこかだ。
私たちの住んでいる薬草園は街から離れた山の中にあった。
近くに歳の近い子供はいなかったので、私と兄さん、従弟のテオ、テルマの4人でいつも遊んでいた。
遊んでいると、兄さんはいつの間にか姿が見えなくなって、探しにいくと大抵リン婆ちゃんのところにいた。
テオとテルマは、その場で楽しいことを見つけて、すぐに二人で夢中になってしまう。
私は、いなくなった兄さんを探しにいくか、テオとテルマがなにを仕出かすかが心配で見張っていた。三人は好きな所にどんどん行ってしまうのに、私だけ皆が気になって、どこに行ったら良いのか、なにを楽しんだら良いのかわからなくなってしまう。
なにかに夢中になっている三人が羨ましくて、どうしてなのか分からないが、なんだか少し寂しい気持ちになることもあった。
リン婆ちゃんが行方不明になってから、兄さんはリンを探しに、一度お爺ちゃんと旅に出たことがあった。
その時、手がかりかもしれないと、紫色の花を持ち帰った。
私は一目見て、かわいくて良い香りでなんだか気持ちが安らぐ気がして、すぐにその花が大好きになった。
なんだろう……リン婆ちゃんに歌ってもらって、ぽかぽかで眠くなるあの『ゆらゆらした感じ』を思い出す。
お花は耕して植えるとすぐに芽が出た。少しづつ増えていくのが楽しかった。
最初はポプリやリースにして香りや飾りとして楽んだ。
それから、お爺ちゃんとアルヴァ叔父さんに教えてもらいながら、テオとテルマと一緒にいろいろ試したら虫よけとしても使えることがわかった。
それを兄さんに渡したらすごく喜んで、「リン婆ちゃんを探す」と言ってそれを持って、家を出て行ってしまった。
兄さんからお花の持ち主サキさんを紹介してもらい、何度も手紙のやり取りをした。会ったことはないけど、優しい文章、分かりやすいレシピ、情報を交換していろいろ教えて貰った。
石鹸も作れるようになったし、煮詰めてジャムにもしてみた。
このかわいくて良い香りのお花をもっといろいろ試してみたい。
石鹸作りが成功したので、たくさん作って兄さんの旅費の足しにならないかしら。
家の周りが紫の花でいっぱいになった頃、リン婆ちゃんが時々降らせていた雨がまた降るようになった。
私は兄さんのように竜の気配はわからないけど、リン婆ちゃんの降らせてくれた雨は覚えている。この雨が降る限り、リン婆ちゃんがどこかに無事でいると思えた。それに兄さんは絶対リン婆ちゃんを探し出すことができる。
懐かしい雨が降るたび、リン婆ちゃんを思って空に祈る。
****
「リリスは?リリスも一緒に学校に行こうよ」
「う~ん。私はあの紫の花をどうやって使うか、いろいろ考えるのが楽しいの、それに一度に三人家を出てしまったらみんな寂しがるわ」
上の学校に行くと決めたテオとテルマに、私だけ置いて行かれたような寂しい気持ちは無い。
兄さんも家を出てテオとテルマも先のことを決め始めている。
私は、寝食を忘れる程は夢中になれなくても、私のままで好きなことをしてゆっくり過ごせる今の暮らしがとても好きだ。それで良いと思っている。
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