裏の山

 嵐のような時間が過ぎ、折角早起きしたというのに、あっと言う間に昼過ぎになっていた。

 ミルヒ先生の勢いに飲まれて少しぐったりしたが、時間は有限だ。皆も同じ気持ちだった。

「急いで買い出しへ行こう。俺達、今日も地面で寝たくない」

 テオとテルマが言い出し、すぐに皆それぞれに動きだした。


「僕は水源を探して周りを確認しておくよ」

 二手に分かれて、僕以外の三人は買い出しと学校に寄って必要なものや道具を借りてくる為に家を出た。


 精霊様の水源を探せる地図を使わずとも、裏手に水が沸いていたのがすぐ見つかった。水受けを作って溜まるようにしたらすぐに使えるだろう。

 いろいろ作るのには木材も必要だ、日が暮れるまではまだ時間があり、三人は当分帰って来ない。だから山に入ってみることにした。


 心細かったので、ヤギを連れて草をかき分けて進んだが、すぐに下草がいっぱいで進めなくなった。

 ヤギが草を食べ始めたので一緒に草を刈ることにした。


 柔らかい干し草なんかあれば、寝床になるかもしれないと思い、刈り取って集めておいたが、草は虫がいっぱいついていた。

 別に虫くらい平気だけど、寝床が虫だらけなのはは落ち着かないな。そもそも干してないから、今日も床で寝ることになるな。と、一人でいろいろ考えを巡らせながら手を動かしていると、結構時間が経っていたようで三人が帰って来た。刈り取った草はかなりの量になっていた。


 食料品を買い込んだテオ、学園から毛布等を借りてきたテルマ、ペータは小型の手押し車に釘やトンカチ木材、授業で使う教材とスコップも積んであった。

「『その手押し車で雪を運んで氷室を作っておきなさい』ってさ」

 本日学園で、二回目のミルヒ先生のとの語らいがあった様子だ。


 荷物を降ろしながら整頓していると、アイスクリームの作り方の本が3冊、絵本も混ざっていた。

 絵本の中のアイスクリームはとても美味しそうで、なんだかんだで、食べたことのない白くて冷たくて甘いというアイスクリームへの気持ちは、すぐに盛り上がっていった。

 盛り上がってしまった気持ちは止められない。

 次の日からテオとテルマに家のことは任せて、ペータと僕とヤギで雪を探しに裏の山に入ることにした。


 草を刈りながら、道なき道を進む。


「なぁ、アーク。学校には通わないんだろ?なぜここで一緒に暮らすんだい?」

「あ~。用事があって…」

「昔会った時もそんなこと言ってたな。あれから何年も経ってるのに、まだ用事が終らないのか」

「うん、実はそうなんだ」

「ま、ここにいる間だけでも力になるよ。あ、詳しく話せないなら話せる部分でだけで大丈夫だ」

「ありがとう」

 ペータの気持ちがありがたい。一人でリンを探していた時には竜のことは誰にも聞けなかったし、言えなかった。

 今は事情を知っているテオとテルマもいるし、力になってくれるというペータもいる。誰か相談することができる人がいるだけで気持ちがずいぶんと安らいだ。


 ペータと他愛もないおしゃべりをしながら上の方に進むと、急に目の前にもやがかかって来た。

 山は下から見た時には煙っているようには見えなかった。

 でも今は登れば登るほど、常に靄が纏わりついてくる。まだ視界はある程度あり、麓がかろうじて見えるが上に登るにつれどんどんきりが濃くなっていく。


「アーク、戻ろう」

 山育ちのペータは状況判断が早い。やはりこれ以上登るのは危険を感じた為、一旦戻ることにした。

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