旅の一日目は順調だった。

 荷物は重かったけど、街道は川沿いのまっすぐ平坦な道で、獣除けの柵があり足元は整備されてて歩きやすかった。こまめに休憩できる場所もあり、夕方前には宿泊できる場所にたどり着き一日目の旅程は早めに終わった。

 次の日の歩く道を爺ちゃんと話し合い、下着や靴下を洗い体を拭いて休んだ。


 二日目は体が少し重かったけど、問題無く程よく歩いた。景色が見たことのない風景に変わり、なだらかな草の丘に大きな生き物が人間と共存していた。

「ブモー」と鳴いていて、その動物の肉もミルクも食べたことがある。皮もベルトとして腰についている。知っていたけど見たのは初めてだった。


 三日目からは急にきつくなった。

 昨日洗った下着とタオルはまだ湿っていたけど、ザックにむりやり詰め込んだ。

 少し湿った背中とザックのが肩に食い込んで痛い、体は重だるくて足は思い通りに上がらなかった。

 足の付け根がなんだかギシギシして油を挿したと思った。

 『ギーパス』という街にやっとたどり着いた時には足のマメはしっとり潰れていた。


 一晩休んだ後は、舟に乗り西の『フルーゼ』という街に行くことになっている。

 舟に乗るのも見るのも初めてだったが、ずっと街道沿いを穏やかに流れていたはずの川は、ここにきて急に川幅が狭くなり、勢いが増している。

 8人乗り込んで満員になった小さな舟はたいそう揺れたが、しなやかに川の流れと共に急流を下った。


 川の流れが少し緩やかになった頃、足が痛くて限界だったので、行儀が悪いとは思ったが靴を脱いで潰れたマメに薬草を塗って外気に当てた。


「ずっと靴を履きっぱなしだと蒸れて痒くて困るよな~」

 先頭にいる舟員に笑いながら話しかけられた。

 日に焼けた体格の良い男性はギヘイさんと言って、今乗っている舟をもとの街へ戻す仕事をしていると言った。

 帰りは山道を二人がかりで舟を曳き、時には担いで一日かかりで戻るらしい。大変な仕事だ。


「マメや靴擦れには慣れたけど、痒いのがな…それに、ヘトヘトに働いて帰ると嫁さんと娘に足の臭いを言われてさぁ、そりゃねぇよな~って話だよな」

 はっはっはと明るく話す。

 周りの乗客も何人かはうんうん頷いているが、わりと切実な問題ではないだろうか。


 爺ちゃんが乗客や船員さんと談笑しつつ僕の方をチラチラ見てる。

 目線は足と薬草の入っている袋だ、勇気を出して言ってみた。


「薬草はいかがですか?これには殺菌効果があって…」

 ギヘイさんと他のお客さんが何人か興味を持ってくれた。

 会話しながら、自分でも驚くほどすらすらと薬草の説明の言葉が出てきた。

 人に薬草のことを話すのは初めてだったけど、爺ちゃんとアルヴァ叔父さんに教えてもらったことはしっかりと身についていた。

ふと見ると爺ちゃんはこっそりと親指を立てていた、合格みたいだ。


「この粉を水に溶かして、足を洗って乾かしたあと薬を塗ると効果がありますよ。靴の中に薄く敷いても良いです」

 爺ちゃんがフォローもしてくれてシュワシュワの粉とセットで思い切って、値段をいつもの街に卸すときより高めに言ってみた。

 それでも何人かが買ってくれることになった。

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