雪降る街

 不思議な女の子アリョーシャに言われるまでもなく、すぐに学園都市は雪に覆われ、裏山の散策は難しくなった。

 降り始めの頃は、毎日山の道の様子を見に行き、こまめに雪をどけていたが、あっと言う間に降り積もった雪は、道どころか山全体を隠し、なすすべも無くなった。


 雪が降るようになっても、たまにミルヒ先生は訪ねて来てくれる。

 雪かきをすることを教えてくれたのもミルヒ先生だ。


 その日は多く雪が降り、すっかり日が暮れてしまったので、残りの雪かきはテオとテルマに任せて、ペータと先に夕食の支度をしようと家に入った。

 遊びに来ていたミルヒ先生へ温めたヤギのミルクを渡しながら、ずっと気になっていたことを訊ねてみた。

「あの、先生は子供の頃は裏山で遊んでいたと言われましたよね。この山で精霊様がいるとかそういった話はありませんか?」

「精霊様!!懐かしいわ。子供の頃に良く探しに行ったのよ。でも結局一度も会えなくて、もしかして見つけたの?」


「雪が積もりだす前に、アリョーシャという人に山の中で会ったんです」

「アリョーシャ⁉もしかして、ワタクシと同じ位の年代の人だった?」

「いえ、女の子です。年はテルマ達と同じ位の、細い絹糸みたいなサラサラの髪が印象的でした。暗かったのですが明るい茶色の髪だと思います」

「瞳は紫?」

「あ、そうだったかもしれません」

「私より頭二つ分位高い身長だった?」

「結構長身だとは思いました。僕よりは少し低い位です」


「……その子にはいつでも会えるの?」

「いえ、一度会っただけです。もう雪が降るから山には入るなと言われて、もしかしたら春になったら会えると思うのですが、どうなるかはわかりません」


「そう、次に会いに行くときは私も連れて行って頂戴」

「え?あの、お知り合いですか?」

「知り合いだったら良いなと思うのだけど、ワタクシの知っているアリョーシャは同い年なの。でも、気になることがあって」


「わかりました。雪が融けてからになりますが、一緒に行きましょう」

「約束よ」

 ミルヒ先生は、丁度良さそう温度になったヤギのミルクを神妙な顔で一気に飲み干した。


「アーク!そろそろ、こっちを手伝ってよ」


 ペータから声をかけられたので慌てて、調理場に入った。


 テオとテルマの雪かきも一段落し、夕飯も出来上がった。

 ミルヒ先生リクエストのヤギのシチューだ。

 この辺りは良くお米が食べられていて、我が家でもいつの間にか欠かせない主食になっていた。

 シチューと一緒に食べるとほっこりと温まるので、寒い日には定番のメニューだ。


 ミルヒ先生はお米とシチューを一緒に頬張りながら「そうそう、アイスクリームのことなんだけど」


「やっぱり、冬は売れませんよね」


「この家、寒すぎるのよ。試しにもっと温かくしてアイスを食べてみなさいよ。絶対幸せな気持ちになれるわ」


 雪が降りだしてからは、寒くて、寒くて、アイスを食べたいなんて一度も思ったことがなかった。他の三人もおそらくは同じだろう。

 それでも、ミルヒ先生が来るときは、多めに薪を焚いていたけれど、どうやらそれでも寒かったみたいだ。


「薪はもっと、ガンガンに焚かないと。とりあえず、今からもっと焚きなさい。それから炉の近くにはヤカンを置いてお湯をわかしておくこと、冬は湿気が大事なのよ。でないと喉を傷めるわ」


 シチューで温まった僕達だが、その日はミルヒ先生の言う通りにどんどん薪を焚き、隙間風の入る壁をできるだけ埋めて、家は程よく温かくなった。


「ん~美味しい。やっぱり、暖かい部屋で冷たい物が食べたいじゃない。冬は家族や友人が集まっているから、容器を大きくして家族で食べられるようにまとめて売るのが良いと思うのよ」


 ミルヒ先生の言う通り、大き目の容器に入れたアイスクリームを煙突から煙が出ている家を中心にして、訪問販売をしてみたら、喜んで買ってくれる方が多くいた。

 おかげで、冬の間もアイスは変わらず重要な収入源になった。


 本当にミルヒ先生は面倒見が良くて頼れるヤギのミルクが大好きな先生だ。

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