山頂から

 さて、アリョーシャに会うには、紫の花の側で火を焚いて呼べと言われたが、声に出して呼べばいいのだろうか。紫の花を手に持ち、声に出して呼んでみた。

「アリョーシャ」

 なにも起こらない。


「アアリョーシャァアア」大声でも呼んでみた。

 ……やはりなにも起きない。紫の花を試しに一束火の中へくべてみた。煙の香りに少しの爽やかさが混じった。

 しばらく待ってみよう。

 この場所で一晩位は過ごせる準備はしてある。ミルヒ先生も大荷物だったので、なにか用意はしてあるだろう。



 まだ周りにはまだ雪が残っていて寒い。

 焚火の周りに小枝を乾かすように並べていると、大風が吹いた。

 外套の襟もとを締め、風をやりすごしていると突然声が響いた。

「あんたねぇ。春になったら呼べって言ったじゃない。雪の山を甘く見てるの?ここ、まだ雪が残っているの。見てわからない?山の雪は危ないのよ。凍死することもあるわ」

 アリョーシャは霧の中から突然現れたように思えた。


「アリョーシャ。会えて良かった」

「こっちでも探しておくって、約束したじゃない。」


 ガサッ


 突然物音がしたと思ったら、隠れていたミルヒ先生がアリョーシャの腰のあたりへ突進してきた。


「危なっ」

 慌てて手を出し、支えようとしたが、何故か一瞬で視界は真っ白になった。


「!?」


「きゃぁあ」

 ザザッ。ドサッ。

 音しか聞こえない。

 直前に見えたのはミルヒ先生がアリョーシャを押し倒そうとしたところだ。


「ミルヒ先生?アリョーシャ?」

「いたたた。アーク?」

 ミルヒ先生の声だ。


「えっ。ミルヒ?わっ……」

 アリョーシャの声が遠ざかっていく、他に誰かいる⁉


「え?誰かいますか?アリョーシャ?」


 しばらくしてから、徐々に視界が戻ってきた。霧なのか?まだ自分の足元も見えない。


「大丈夫ですか?」

「いたたたた、なにが起こったの?」

 うっすら見え始めた、地面に転がっていたミルヒ先生に手を貸す。

 それから、少し息を切らせたアリョーシャの姿も見えてきた。


「二人とも大丈夫?」


「アリョーシャ。やっぱりアリョーシャじゃない」

 今度は押し倒さずにミルヒ先生は正面から抱き着いた。


「ミルヒ……」


「え?まって、ほんとに生きてるの?おばけ?それともアークの言う精霊になってしまったの?」

 ミルヒ先生は顔を上げて、アリョーシャをペタペタと触って確認する。


「え、ちょっと待って。さっきの白い世界はなに?夢?もしかして、ワタクシ死んでしまったのかしら……」

 ミルヒ先生がいろいろ話しているが、それより他に気になっていることがある。


「今、他に誰かいましたよね?」

 返事はいらない、確信がある。

 この山でずっと探していた気配がした。

 気配を感じる方へ走り出そうとしたが、アリョーシャの横をすれ違った瞬間、腕を掴まれた。


「待って」


「離してください」

「…………離さないわ。い、行くなら、私を倒してから行きなさい!!」

 え?なにを言っているのだろう。

 先ほどミルヒ先生が、既に押し倒していると思うが、それでは駄目だろうか。


 よくわからないので返答に困っていると、再び視界が真っ白になってしまった。


「彼女を離せ」

 急に地の底から響いてくるような低い声が真横から聞こえた。

 でも、掴まれているのは僕の方だ。


「ちょっと!アリョーシャ、ワタクシを無視しないでちょうだい」

 姿が見えないが、ミルヒ先生が騒いでいる。


 あれ?なんだか良く分からなくなってきた。ミルヒ先生の言う通り夢なのかな。

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