前章:雨降り竜の母

前章1:雨降り竜の母

 しとしと雨が降っている。

 今日は早い時間から降り始めたのでまだ陽は高い。虹が架かるかもしれないと思い、のんびり空を見上げながら安全に暮らしている。ここは私の創った楽園だ。


 私の名前はモモ。雨降り竜の女の子。

 父と母はつがいになって100年を超える雨降り竜。

 二人の兄もそれぞれ番を見つけ、この地に戻りみんなで賑やかに暮らしている。


 弱い上に繁殖力の低い竜が一族平和に暮らせているのは、ここが竜の保護区として人間が手を貸し、守ってくれているからだ。


 私は、成長して両親との絆がそろそろ消えるので、もうすぐこの地を出ていかなければならない。

 絆が切れてしまった竜が長く一緒にいると双方少しづつ弱ってしまう。

 まぁ、子供は早く独り立ちしろという自然の摂理だ。


 竜は番がいれば、お互いの愛情を糧にしてとても長い時間を生きられる。

 とは言っても栄養的な話で、不死身ではないから、安全なこの地に戻ってくるのは弱い私達竜にとっては最適な生き方だと思う。

 でも、その生き方は私には無理だろう。なぜなら私の鬣も鱗もピンクでフワフワしている。

 両親や兄達はフワフワでキラキラしたピンクの私をとても可愛がってくれたけど、この風体ではどこに隠れてもすぐ見つかってしまう。

 危ない時は、みんなは空や湖の色に溶け込んで逃げられるのに、私のピンクのアフロは全然自然に溶け込めやしない。

 父さんと母さんが隠してくれなければ、私はすぐに怖いものにやられてしまうだろう。


 他のどの生き物を見ても、ピンクのアフロの子は見たことなかった、異質なんだと思う。

 異質なものが番を見つけるの大変だ、目立つから危険を避けられないし、きっと長生きできない。私には番を見つけて戻ってくるという未来は無いと思っている。


 でも、私は死ぬ気満々でここを出ていくわけではない。

 以前訪れた砂漠で、隠れるのに良さそうな場所を見つけておいた。そこで新しく楽園を創ろうと思う。

 一人で隠れて余生をダラダラのんびり過ごせる場所、ついでにほかの生き物達も休んで、癒されたりして平和に暮らせる、そんな場所を創ろう。


 父さんと母さんとはもう二度と会えないだろう。

 この場所と、家族とお別れしてその地を目指して出発した。

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