船酔いでぐったりしていた爺ちゃんは、一晩休んだら完全回復した。

 舟が出る時間までは町を見て回って、元気そうに歩いていたので大丈夫だと思い、安心したが、船着き場に着いた途端、げんなりした表情で顔が青くなった。けれど気合を入れて昨日買った薬を飲んで乗り込んだ。

 舟には半分位の人が乗り込み残りは積み荷だった。


 足のマメは昨日の処置が効いて程よく固くなっていた、また歩くことができそうだ。昨日のように舟員さんに薬の宣伝をしたら興味を持って話を聞いてくれた。やっぱり足の問題は切実だ。


 急流を下って、川幅が広くなり、終点に差し掛かったあたりでなにかがゴトゴトと回転していた。大きい!

「なんですかこれ。回ってる…なんの為に?」

「水車だよ。水の力を利用する装置だ。この小屋で粉も挽けるし餅もつける」

 舟員さんは丁寧に説明してくれた。

 舟が桟橋に着いた。近くで見るとますます大きい。


「到着したら、早速風車を使うけど見ていくか?」

 舟員さんが一旦水車の水流を止めてからロープを掛け、堰を外すとまた水車がゴトゴトと回りだし、あっと言う間に舟は陸に上がった。

 圧倒されてしばらく見ていたら作業が終わったようで、隣の小屋も案内してくれた。


 中はドゴドゴとすごい音がして、水車から伸びている棒が違う棒と組み合わさってずっと回っていた。

 自動で穀物が挽かれ、隣では女の人がペタペタと白いなにかを踊らせていた、その隣の窪みにも黄色いなにかがくるくると踊っている。

「これが餅だ。名物で美味しいぞ」

 そう言って餅が食べれる市場を教えてくれ、仕事へ戻って行った。


 夕飯には早い時間だったけど、香ばしい匂いのする名物を食べない理由は無かった。

 最初に目についたのは炭火で炙られたもので、中から白くて柔らかそうなものがプクプクどんどん膨らんでいる。

 一つ頼むと直前に女の人がタレをかけてくれて、さらに香ばしい匂いが広がった。

「はい、どうぞ。よく噛んで食べてね」


 サクサクして中は噛み応えがあった。とても弾力があるけど柔らかくムニ~っとしたものが伸びる。タレと混ざって甘じょっぱくて口の中でも香ばしい。


 爺ちゃんはスープを頼んでいた。中には野菜と小さめの餅が3つ入っている。

 ハフハフと食べながら

「美味しいな。というか面白い感触だな」


 スープに入っているもの、焼いたもの、他にもいろいろ種類があって色が違うもの、なにかが練りこんであるもの、小さく柔らかく丸めて串にささっているもの、平べったくされてカリカリに焼いてあるもの。

甘いのもしょっぱいのも冷たいのもある。


 びっくりするくらい、いろいろ種類があるのにそれが全部餅だという話だからさらにびっくりだ。


 その日は早めの夕食にも関わらず夜更けになっても全然お腹が減らず、いつまでもあたたかい満腹感が続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る