第11話・3つの真っ直ぐ

 荒巻、青山が加入して3日。

 一年生の基礎トレーニングもレベルが上がりつつあった。

「ここ3日でめっちゃペース上がってる……」

「こ、これが無名校の練習ですかい……」

「全身パンパンだぜ……」

 基礎トレーニングは非常にシンプル。


 ダッシュ合計5分。

 筋トレ2分。

(ジャンプ腕立て伏せ、ジャンプスクワット)

 ランニング30分。

 全身ストレッチ20分。


 数値だけ見れば普通、もしくは簡単と感じるだろう。

 実際に俺達もそう感じた。

 だがこのメニューを、ある条件下でこなすと滅茶苦茶キツいのだ。

 その条件とは。


 順序が毎回入れ替わる。

 四肢に付ける重りの重量は日によって違い、種目単位で変更される。

 インターバルの時間がバラバラ。

 変更内容の事前通告一切なし。


 トレーニングを毎回同じテンポ、同じ順番、同じインターバルで進めると、確かにそのトレーニングに適応し、数値はある程度伸びる。

 しかし身体がそれに慣れてしまい、ちょっとでもリズムが崩れると一気に適応できなくなるのだ。

 そこで監督が考え出したトレーニングがこれ。

 後のトレーニングが分かっているとそこに合わせようとペース配分することができるが、事前通告が無いため、配分できず、そのトレーニングを全力でやる他なくなる。

 重りも毎回変わるため、重ければ動かない。軽ければ動けるが、それで自分の限界動作を乱してしまうと余計に体力を奪われる。

 これを繰り返すと、本当にしんどい。


 そしてこの後、普通に野球の練習となる。

 野手はとにかくノックを受ける。

 投手は捕手と組んでキャッチボール、フォームチェック。

 俺は滅茶苦茶矯正される。

「また肩が上がってる!」

「身体の開きが甘い!」

「目線下がってんぞ!」

 監督、エースの国光さん、二年生の堂本さん。

 俺のフォームは安定してないらしく、このままでは怪我する可能性があるとして、最優先で矯正することとなった。

 フォームを直される度に、投げるときに感じた負担が削がれている気がする。

 実際はどうなのか分からんが。


「変化球禁止?」

「あぁ。今からチェンジアップを直すのは時間がかかる。しかし、チームの投手層が薄いことを考えると、お前を即戦力としてベンチに入れるしかない。そうなると、チェンジアップを修正する時間は少なくなる」

「だからチェンジアップを封印する、と」

「その通り。前も言ったがお前は真っ直ぐで勝負できる投手になれる。だが、今の真っ直ぐだけで高校野球を勝ち抜くことはできない。そこでこれから夏までにお前にやってもらうことがある」

 監督は一呼吸置いて、

「これから、三種類の真っ直ぐを習得してもらうぞ」

「さ、三種類? ストレートが?」

「その通り。癖が付いたチェンジアップより、真っ白な状態から新たに習得する方が今は良い。さて、その三種類を伝えよう」


 三種類の真っ直ぐ。

 一つ、これまでの暴れる真っ直ぐ。

 一つ、ツーシーム。

 一つ、スローボール。


 元々の浮き上がって見える真っ直ぐを磨き、芯を外すツーシーム、そして緩急を付けるスローボールを習得。

 ここで当然疑問が出る。

「緩急ならチェンジアップで良いんじゃ?」

「ただ球速を落とすのと、違う握りで球速を落とすのとでは全く意味が変わってくる。打者から見える腕の振り、ランナーからも握りが見えたとて予測できないとかな」

 監督が言うのは、山なりのスローボール。

 チェンジアップはそもそも腕の振りが変わっているので、真っ直ぐを力を込めずに山なりに投げることで、一気にタイミングをずらす戦法。

 スローボールもただ手を抜いて投げるわけではなく、投げ方というものがあるらしい。

 基本的にストレートとツーシームでの勝負になるため、スローボールの習得はまだ先になるらしい。


 俺は基礎トレーニングと、フォーム矯正、そして真っ直ぐの練習をこなすことになった。

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