第32話・対有洛高校、ハイライト

 ・翌日、とある記事より


 強豪、火山高校相手に善戦するも惜しくも敗れた平業高校。

 同日行われた、兵庫の有洛高校との一戦。

 今年の平業高校はまさに上を目指さんとばかりの力を発揮し、名だたる強豪と渡り合っている。

 メンバーほとんどを入れ替えで臨んだ、2戦目でも、レギュラー候補となりうる実力派ルーキーがその力を示した。


 先攻は有洛、後攻は平業の試合。

 一回表、マウンドに上がった先発は泉堂。

 昨年は外野手出場をメインに、要所で登板するも悔しい結果を残す形となった。

 今年は投手と外野手両方の力をチームに求められるように、オフに仕上げてきたつもりですと、後のインタビューで語っていた。


 先頭打者をフォアボールで出塁させ、さらに盗塁を決められ序盤いきなりのピンチ。

 続く二番打者にもライナー級の当たりが出たが、一年のショート島野のファインプレーに助けられる。

 三番相手にはこれも制球が定まらなかったものの、これもショートゴロで二塁ランナータッチアウトに一塁ランナーもアウトのダブルプレー。

 決して良いと言えるものではない立ち上がり。

 しかしバックを信じて恐れることなく投げることができたのは、泉堂もまた、バックで投手を守り続けてきたことによる信頼によるものであろう。

 そして初回で存在感をアピールしたのが一年遊撃手、島野勇である。

 レギュラーの烏丸にも劣らぬその守備範囲の広さ、対応力、打球への反応速度。

 捕手森本、一塁手郷田と共に同じ中学出身だけあり、軟式出身とは思えぬ実力を持っているのは間違いない。

 打撃面でもセンスを見せ、鮮やかな流し打ちに二番打者星影のヒットでホーム生還。

 線は細いが、技術は確かなもの。

 即戦力性は、森本にも引けをとらないかもしれない。


 0対1のまま試合は進み、四回表のプレーにも注目しておきたい。

 ワンアウト一、二塁の場面。

 泉堂は初回の不調を乗り越え、ここまで奪三振3、四死球1。

 有洛高校もここで点が狙えるチャンスだったのか、気合いの入った打球を飛ばす。

 ここで華麗なプレーを見せたのがなんと女子選手。

 火山高校との試合でも良い守備を見せてくれた一年の二塁手、荒巻薫。

 打席でデッドボールを浴びた先輩星影に代わり、三回より起用。

 センター前ヒットかと思われた打球に飛び付き、更に迷いなく二塁へ送球。

 島野がしっかり受け止め、一塁でダブルプレーとなった。

 このプレー、何が凄いか伝わるだろうか。

 荒巻は打球が飛ぶ前に瞬時に動き出し、島野は荒巻が捕ると信じてベースに入り、荒巻は島野を頭が認識するより前に全力の送球。

 お互いの力量への確かな信頼がなければ成立しないプレー。

 一年生二遊間が、これほどのプレーを見せてくれると、私は予想ができなかった。

 素直に賞賛することしかできない。


 そして七回裏。

 ここまで無得点だった主将、嶋。

 相手投手の隙を突き、フェンスに向かって弾丸ライナー。

 エースキラーの名に恥じぬ打撃力を見せつける形となった。


 八回表、泉堂は疲れのピークで二点を失い追い付かれるも、気迫のピッチングを見せ、投げきる。

 2対2で迎えた九回表。

 登板したのはリリーフエース、右の堂本。

 アンダースローから放たれる、独特の軌道の高速シンカーでピシャリと抑える。

 九回裏。

 島野のフォアボールと盗塁、荒巻の送りバントでワンアウト三塁のチャンスの場面。

 三番石森の二遊間への丁寧なヒッティングでサヨナラ勝ち。


 6月上旬某日。

 主将の嶋奏矢をはじめ、菅原、森本らの黄金一年の加入で大きくレベルアップした平業高校野球部。

 火山高校、霧城高校、有洛高校等、名だたる強豪に善戦を繰り広げ、頭角を現してきている。

 今年のこのチームは、夏の大会のダークホースになるかもしれない。

 記者としては四強に注目するべきなのかもしれないが、一野球ファンの私個人としては、このチームにも是非注目したい。

 四強のパワーバランスを崩すか平業高校。

 それとも四強はその力すらも超えるか。


 今年の夏の東京大会。

 史上最大級の熱き戦いが見られることを期待できるだろう。



 ・???side


「へぇ、亀羅かめらさんがここまで熱くなったなんて珍しいな」

 スマホに表示されたスポーツニュースの高校野球部門。

 会社としては火山高校が練習試合ってことで取材入れたんだろうが、記者の亀羅さん、思わず平業に夢中になっちまったんだなぁ。

 随分と平業にフォーカス置いた記事だし、それだけの試合だった、ってことか。


 記事の文を読んで、写真を見る。

 有洛との記事も気になるが、それ以上に火山とやりあったって選手だ。

 国光、嶋、烏丸、森本、郷田。

 この五人は要注意だな。

 荒巻と島野ってのもマークしとくか。

 あと、笠木兄弟のコメントから察するに……そうか、コイツか。

 菅原迅一。

 霧城との試合でも活躍してたらしいしな。

 国光はしっかり結果残してたし、記事だけ見ればコイツが戦犯だが。

 偵察のビデオ見る限り、五分五分の勝利だったようだな、火山打線は。

 もしかしたら、菅原の方が勝っていたかもしれないと。

 あの鈴が、もう一度投げ合いたい相手に挙げるとはな。

 そうかそうか。


 一年生で強打者、好投手の笠木兄弟と真っ向勝負。

 肝据わってんな、今年の平業の新入りは。


 さて。

 ウチも仕上げていかねぇとな。

 もしかしたら、対戦するかもしれねぇ相手だ。

 平業、千治、火山、霧城。

 他のチームも。

 どこが上がってくるよ。

 今年のウチは、どこでも良いぜ。

 牙研いで待っていてやる。

 俺達が、海王が、チャンピオンだって、心の底から思い知らせてやるよ。



 ・一方その頃……


「いい加減にしろ。俺のリードが聞けないならそこから降りろ」

「だったらこの俺様が納得するリードしてくださいよ、先輩さん。この俺様にふさわしいリードをね!」

「お前の球が凄いのは認める。だが、チームの統率を乱すようなら、そんな選手は必要ない」

「統率? そんなもの必要ないね。俺様がパーフェクトゲームで甲子園に皆さんを連れていってさしあげよう! 先輩はただ、俺様の投げた球を捕ってれば良いんだよ」

「何ィ……?」

「君達、まだかね」

「……すいません」

 審判に止められて、渋々戻る。

 あの暴れ馬め。

 才能があるのは分かるが、あまりにも暴君過ぎる。

 せめて球種の言うことくらい聞いてくれ、と願うしかない。

 本人曰く、海王にも勝てると豪語しているが、チーム全体に悪影響しか与えないあの傲慢的な自信はどこから湧くんだ。

 はぁ。

 今年の夏は、あのバカたれを抑えながら戦わなきゃならんのか……。



 ・菅原迅一side


『見てたぞ。新球、今すぐ打たせろ』

「開口一番それか。やだよ。何でテメェに手の内明かさにゃならんのだ」

『俺が完成させてやろうと思ってな』

「テメェ完成版の軌道見たいだけだろうが」

『……』

「図星かよ。何か言え」

『ケチ』

「切るぞこの野郎!」

 練習試合終えてその夜。

 神木から電話が来て、出てみたらこれだ。

 まったく、相変わらず顔に似合わぬ行動をしよる。


「まぁまぁ落ち着け。ここからが本題なんだから」

「次ふざけたら切るからな」

「分かったっての。聞きたいことがあってだな」

 神木が俺に聞きたいこと?

 何だろうか。

 考えられるのは……無いな。

 その時、神木の口から発せられた言葉は、俺の中の嫌な思い出を、フラッシュバックさせた。


新宮煌雅しんぐうこうがって知ってるか?」

「……は?」

 し、新宮、煌雅……?

 何で、その名前が……?

「菅原、どうした。菅原?」

「……悪い、神木。一応、質問の意図を聞いても良いか」

「あ、あぁ。この間、ウチと千治高校の二軍同士で練習試合やったんだよ。その時の投手が新宮だったんだよ」

「……それで、結果は」

「霧城の完敗。バッテリー間でトラブルあって失策も多かったけど、ほとんど新宮の一人勝ちだったな。ウチの打者が誰一人として打てなかった上に、打点も一人で取ってたし」

 ……そうだったのか、アイツ、千治に行ってたのか。

「気になって調べたら、小さい出版社の記者のインタビューにベラベラ喋ってたよ。そこで出身校がお前と同じ秦野中って気付いたんだが。……大丈夫か」

「悪い。俺から答えられることは何も無い。新宮のことに関しては、特にな」

「……そうか。すまんな」

「いや、こっちこそすまん。気を使わせたみたいだな」


 俺が、じゃあなと電話を切ろうとすると。


「おい。言おうか迷ったけど。やっぱり言うわ。昨日の千治の試合の偵察行ったら、新宮が一軍に上がってたぞ。お前が新宮を避けようとしても、同地区である以上は戦うかもしれないんだからな」

「……あぁ。その時は全力で戦うさ」

 どうやら、神木は何かを察してくれたようだ。

 優しい奴め。


 新宮煌雅、か。

 もう聞くことは無いと思っていた名だが、そうか。

 この地区で甲子園を目指すという以上、奴ともぶつかる可能性はあるのか。


 ……そうなったとして、俺は、奴の前で堂々と投げられるだろうか。


 その日の夜は、イマイチ寝付きが悪かったような気がする。

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