第4話・森本京平の見たもの
時は中学生の市大会に遡る。
森本京平は中学二年生の夏以降、チームのスタメンマスクを任されていた。
走攻守揃った天才型と言われ、地区どころか全国で名を轟かせた。
秋には二年生にしてアンダー15の全国選抜にも選ばれる程。
故に、三年の夏には同年代で注目すべき選手はいないと分かっていた。
ただし、二回戦で奴と対戦するまでは。
三年夏、市大会二回戦。
初戦を容赦なくコールドゲームで勝利。二回戦も問題なく進めるだろうと若干退屈になっていた。
マウンドに上がったのはごく普通体型の投手。特別背が高いでも、ガタイが良いでもない。
ところが、いざ試合が始まってみると。
当時八代中最速の足と打撃技術を持っていたであろう先頭打者の島野がキャッチャーゴロ。
二番打者がピッチャーフライ。
三番はサードのエラーで出塁。
そして四番、森本。
これまでどんなに調子が悪くても島野は出塁していた。
森本に回る頃には既に一点は確実だった。
よっぽど調子が悪かったのか、時の運か。
あれこれと考えながら打席に立つ。
投手が投げる。
インコースに高めのボール球。思わず仰け反ってしまった。
暴れていた。
カットボールやツーシームのようなムービングではない。
異常なほどのボールの回転数で真っ直ぐが伸びており、浮き上がって見えるのだ。
実際にここまで伸びる球は初めて見た。
二球目も真っ直ぐ。詰まってファール。
打ちにくいことこの上ない。
絶対打ってやるこの野郎、と気合いを入れる。
三球目。ここで初めて変化球を放る。チェンジアップ。
しかし力んだか、高めに浮いた球をライト後方まで飛ばした。
その後、チームの誰もがストレートをまともにヒットにはできなかった。
チェンジアップを狙い打ち、もしくは真っ直ぐをゴロにしたときの野手の大量のエラーでの出塁。
この試合、真っ直ぐをスタンドまで飛ばしたのは7回裏の森本ただ一人である。
そのときの投手こそ、菅原迅一。
秦野中の中で唯一ヒットを打ち、三振五つ取り、守備の大量エラーありで失点を5に抑えた投手である。
ちなみに決勝を除き、八代中が全国大会までコールドゲームにできなかったのはこの試合だけである。
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