第5話・自信持って

 マウンドに立つ。

 しっかりと整備された土。

 使い込まれたのであろう傷だらけのプレート。

「こんな感じなのか」

 今までと変わらない視点なのに、何故か新鮮な気分になっていた。


 数分前、三原監督から。

「勝負は君達と同じポジションの5人。残りは君達の後ろを守ってもらう」

 ということだったので、全員が自分のポジションにつく。

 郷田はファースト、島野がショート、田浦はセンターに。

 そして俺の正面、マスクを被ったのは森本。

 急造バッテリーで、先輩たちに立ち向かう。

 森本の実力は、あの最後の試合でよく分かっている。

 だからこそ、自分がその期待に応えられるか不安がある。

 所詮自分は弱小なのではないかとあれこれ考えていると、前には打者が立っており、開始が宣言されていた。

「それでは、プレイボール!」


 サインを見ると、

「嘘だろ?」

 インハイへの真っ直ぐ。

 表情で伝わったのか、

「マジだよ。自信持って投げろよ」

 と表情で伝えてくる。

 打たれても知らねぇぞ!と半ばヤケクソになって投げる。ボール。

 二球目。

 同じコースへ。

 そして三球目も。

 これでスリーボール。

「え、これ大丈夫?」

 次のサイン。四球目は低め外側になった。

 ストライク。

 あれ?

 五球目。低めインコース。

 これも入ってストライク。

 フルカウント。

 あれ?これもしかして。

 六球目。

 アウトローへ。

 カッキーン。

 それはもう気持ちのいいくらいの金属音。

 後方からボールの落ちた音がする。

 ということで、高校生初のマウンドはホームランだった。


 森本が駆け寄ってくる。

「いやー、駄目だったわ!」

「お前、本当にブッ飛ばすぞ!」

 それはそれはとても爽やかな笑顔。

 それを見て思わず、素で言葉が荒くなった。

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