第6話・勝てなくたって

「まぁ、落ち着けよ。現役高校球児と中学上がりじゃ当然実力差はある。打たれたっておかしくねぇよ」

「それは、そうかもしんないけど」

「俺たちは試されてんのさ。打たれることを恐れずに勝負できるかってことを。勝とうとする必要はないさ」

 森本が戻ろうと走り出す。

 が、一瞬立ち止まって。

「まぁ、このまま大人しく負けるのは気に食わねぇ。洗礼を受けるのは後輩だけじゃないってとこ、見せつけてやろうぜ。頼もしいバックもいることだしな」

 そう呟いて定位置に戻った。


「大人しく負けてやるつもりはない、か」

 森本よ。

 お前がそう言うなら。

 俺も頑張ってみるよ。

 自分の左頬にバチンと平手打ちする。

 痛みで体に緊張感が戻る。

 まだ一人目。

 次、その次と。

 同じ負け方はしてやらねぇ。

 三振、ゲッツー、ファインプレー。

 そんなものは必要ない。

 どんなに地味でも、アウトにしてやる。

 バックに目線を向けると、それは頼もしい同期、先輩たちが任せろと頷いていた。

 打者に向き直る。

 まずは、アウト一つ、取る。


 二人目、ツーベース。

 三人目、外野フライ。

 四人目、セカンドライナー。


 感触が掴めたのか、集中力の賜物か。

 アウト二つ取ることができた。


 そして五人目。

 主将にして主砲。

 三塁手、嶋さん。


 ここから、本当の勝負。

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