第7話・これが洗礼
森本京平は迷っていた。
最後のバッター、すなわち、主砲の嶋をいかに攻略するか。
というのも、森本は彼の能力を既に体験している。
近年稀に見る怪物パワーヒッター。
チームの投手力不足によって、敗けが続いてはいるが、彼は持ち前の打撃力でチームの打点の五割を担っている。
つまり、持ちうる手札を全て切っても打たれる可能性が高い。
かといって、菅原の球質では、コースを突いたピッチングでは現状勝負できない。
どうあってもゾーンの際より甘いコースに構える他はないのだが。
(鼓舞した以上は、俺が堂々としてないと、アイツに失礼だよな)
引け腰になるわけにはいかない。
急造バッテリーなら、ピッチャー信じて南保だろ。
森本がサイン出すまで随分間があった。
主砲相手なら無理ないよな。
(でも俺はお前を信じるぞ)
構える。
振りかぶって、思い切り腕を振り抜く。
弱小でも、この真っ直ぐで勝負してきたんだ!
次の瞬間、自分の耳を疑った。
ミットにボールが収まった音。
だが、その音は今までにないくらいの快音だった。
森本のキャッチングが上手かったのか、球が走ってたのか。
何にせよ、凄く気持ちが盛り上がった。
普段なら甘く浮いてしまうチェンジアップ。
これもミットに収まった。
これでツーストライク。
嶋さんを見る。
嶋さんは笑っていた。
その笑みはマイナスなものではなく。
期待。
凄く嬉しそうな顔が見えた。
あぁ、これは。
森本のサインに頷く。
振りかぶって、投げる。
自分でも覚えている。これこそ今日一番の真っ直ぐ。
それは綺麗に進み、そしてミットに収まることは無かった。
記憶に新しい最後の大会と同じように、金属音を響かせ、フェンスを越えた洗礼のホームランだった。
「あぁ! 嶋の奴、また窓割りやがった!」
「テメェ自重しろって言っただろうが!」
先輩たちの悲鳴は聞こえないふりをした。
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