第42話・不器用

(はじめに)

 10000PVありがとうございます!

 これからも精進して参ります!

 以下、本編です。

 ーーーーー


 明日に二回戦を控えた今日。

 俺はブルペンで京平に投げていた。

「ッだりゃァ、チキショーッ!」

「イラつき過ぎだろ。お前昨日の今日で何があったんだよ」

「神木の野郎、人が打てないの見て嬉々としてメール寄越しやがって……!」

「だからお前ら、一体何でそんなに対抗心燃やしてんの?」

「クソがァ!」

「外しすぎだ、せめて打者に当てないように投げろよ!」

「あんの野郎絶対泣かす。二回戦意地でも突破して、ものの見事に三振とったらァ!」

「だから外すなっつーの!」


 二回戦の先発は一回戦で登板しなかった泉堂さん。

 平業オーダーは一回戦と変わらない。

 対戦相手は板先高校ばんさきこうこう

 闘志溢れる、熱いプレーが特徴。

 勢いに乗せると、中々崩せない。

 立ち上がりにやや難のある泉堂さんは、相性が悪いようにも思える。

 理由は、投手としてのタイプ。

 泉堂さんが、変化球型の投手であるから。

 板先打線の変化球での打率は直球に比べてかなり低い。

 それなら堂本さんを、と思うが、堂本さんは制球が武器の投手であり、実は変化球だけ見れば泉堂さんの方が上だったりする。

 立ち上がりさえ乗り越えられれば、変化球を武器にする泉堂さんは板先戦で強力な戦力となる、ということだ。

 しかも左腕。

 それだけで、変化球投手として強烈な武器になる。

「カーブにシンカー。平業の投手、この二種は被ってるよな」

「カテゴリーが同じだけで、まるで別物だけどな」

 俺のツーシンカー。

 国光さんのスローカーブ。

 堂本さんのアンダーからの高速シンカーと縦カーブ。

 そして泉堂さんの、左腕からの横カーブ。

「課題は立ち上がりだけじゃない。打撃の面でも、点を取られてもこっちが打つことで流れを取り返せれば理想。残念ながら、それができるウチの大砲はドクターストップ。今のところは、神経質に失点を防ぐしかないな」

 京平の言葉に頷く。

 嶋さんの不在は、やはり大きい。

 初戦は相手の油断もあったし、実際、今の平業打線には、コールドにもっていけるだけの攻撃力はある。

 しかし、一撃で空気を変える怪物は、あの人しかいない。

 今は何もかもが諸刃の剣。

 少しでも穴を突かれれば、その刃は一気にこちらに襲い掛かってくる。

「神頼み、とは言いたく無いが。野球の神様がどこまで俺達に味方してくれるかだな」


 ところで俺はというと。

「お前と国光は霧城戦まで登板はさせない」

 という監督のお言葉により、次の三回戦まで投げられないことになった。

 ていうか、俺はともかく、負けたら国光さんは夏のマウンドに一回も上がれないってことになるじゃん。

 という思考が顔に出てたのか、

「そう思うなら、貴様のバットで勝てェ!」

 と、シバかれた。


「つーか、公式戦初登板が霧城かよ。迅一お前、本当に引きが悪いな」

「まぁ、ベスト8以上経験校が多いような気はするな。この間の矢岳工業もそうだし」

「去年の板先はあまり結果出てないけど、何せチーム全員当たって砕けろなプレーだし、呑まれたらこっちの負けの可能性は、一気に高くなる」

「……今までと大して変わらねぇじゃねぇかよ」

「……常に崖っぷちだったわこのチーム」

 ハァ、と二人で肩を落とすと、

「そうか、お前らもそう思うか」

 殺気。

 その殺気に肩を掴まれる。

 その発生源は三原監督。

「ヤバい、聞かれてた」

「あ、死んだ」

「だったら貴様らが点を取って勝てェ!」

 俺と京平は、気付いたときには天井を向いていた。



 翌日。

 二回戦開始。

 先攻、平業高校。

 後攻、板先高校。

「礼!」

「「「シャァァァッスッ!!!」」」


 基本的には後攻の方が有利だが、今回に限っては先攻の方が良い。

 スロースターターの泉堂さんに、試合の空気に慣れてもらう時間ができるのだ。

 一回表。

 烏丸さんがいきなり初球ツーベースヒットで出塁し、その後盗塁を決める。

 藤山さんがライト前ヒットで烏丸さんが生還。

 いきなり先制点。

 そして森本が右中間を抜くヒット。

 郷田がタイムリーツーベースを打って、これで3点目。

 俺もレフトの頭を越えるヒットで4点目。

 その後鷹山さんの送りバント失敗、星影さんのゲッツーで交代。

 平業、いきなり4得点である。

 この援護をもらった泉堂さん。

 初球がしっかり決まったことで、勢いに乗ってアウトを取り、三者凡退。

 二回以降も、怒涛の攻撃で10点リード。

 そして五回裏。

 球数も増えてきて若干の疲労を見せたものの、最後は得意のカーブでしっかり抑えてゲームセット。

 平業、五回コールド勝ちである。


「おい、次の試合が始まるから荷物急いで運べー!」

「これ誰のお茶?」

「何かもう熱くなってるから、ゴミ袋に入れとけー!」

 大会の日程はみっちりしており、終わったあとも忙しいものだ。

 試合が終わったら、すぐに学校に引き上げる形になる。

 二回戦突破。

 いよいよシード校の霧城と、夏の大会という舞台で戦うことになる。

 神木に、噂のエース。

 神木が言うには、かなり、かーなーり燃え上がっているらしい。

 一体どんな人なのか……。


 学校に着くと、荷物を運んで、部室で軽くミーティングを行って終了。

 各自、自由行動となる。

 練習するも良し、夕方でも気温が高いので帰って休むも良し。

 俺はもちろん練習だ。

 次の試合は土曜日だし、一日空く。

 霧城戦で登板するということで、しっかり調整しておこう。


 そういえば、ふと思い出した。

「男子主体の部活の廃部を訴えてるらしいですね、応援団の人達」

「あぁ、知ってたのか菅原」

「あれ、嶋さんも知ってたんですか?」

「頭の痛い話だが、な。団員達の暴走だ。本来であれば団長が責任をもって止めるべきなんだが……」

「団長も、乗り気だと」

「乗り気ではない」

 後ろに立っていたのは、男子禁制の花園のお頭、名前は……何だっけ。

華川藍はなかわらんだ、一年坊主。そして嶋、お前は何度ちゃんと説明しろと言えば分かるのだ」

「いや、あのですね姐さん大会中ですしね」

「誰が姐さんだ。そういうところだぞ、私が誤解を受けるのは」

「誤解でも何でもねぇだろ」

「適切に伝わっとらんだろ!」

「あ、あの、先輩方、ちゃんと話してくれませんかね?」

「「あぁ?」」

「何で俺睨まれたの!?」


 男子禁制の花園、応援団。

 その歴史を語ると面倒なので省略する。

 今の応援団は、男嫌いの女子だけで構成されている。

 基本的に団員達が応援に行くのは女子部活のみ。

 人数もいるので、暴走した行動が起こりやすいのだと言う。

 先ほどの廃部申請もそうだし、男子部活への野次馬による妨害。

 SNSのグループ等での陰口の拡散。

 出るわ出るわ問題行動。

 流石に見かねた団長が、嶋さんに依頼をしたと言うのだ。

 その依頼というのが、

「野球部の応援ってことですか?」

「あぁ。基本的に、勝ち進む部活の応援しか行けない空気になっているんだ。だから野球部が勝てば、必然的に応援に行かざるを得ない。そういう空気に流されやすい団員共だからな」

「現状男子主体の部活で勝てる可能性があるのが、野球部しか無いんだとよ。それで勝ってこいって頼まれたんだよ。何で俺らがコイツらのケツ拭かなきゃならねぇんだって思ったから、部員には言わなかったけどな」

「仕方ないだろ。もう私にも手綱が握れないんだ。……不器用だし」

「そうだな。不器用だな」

「ぶ、不器用?」

「超不器用だぜコイツ。男と話すときガッチガチになってて、男嫌い認定されたりな。んで、コイツにメスにされた連中が、言っても無いこと勝手に解釈してやり始めてな」

「こ、後輩の前でそういうことを言うな!」

「事実じゃねぇか」

「だとしてもだ!」

 あぁ、何だ。

 ただの面白い人なんじゃん、団長さん。

「去年までは、もう当たり前のようにピーとかアーンとかあったんだが、それはもう今年で終わらせる。その為には、男子主体の部活の力を借りるしかないんだ。嶋、頼む」

「ハイハイもう聞きました。言われなくても勝つってのよ。どうせ三回戦来るんだろ?」

「あぁ。……奴らはやる気無いんだが」

「団長はやる気があるんですか?」

「応援に行きたくても、毎年負けるから行けないんだよ……」

「あれ、本当だったんですか……」

「ゴホン。と、とにかく。嶋、くれぐれも三回戦、負けないように!」

「あー俺、準決勝まで出ねぇよ。怪我したしな。戦うの、ここにいる菅原含めた連中だからよろしく」

「……な、なんだと」

 雷が落ちたような反応をする華川先輩。

 え、何この反応。

「せ、折角応援に行くのに、で、出ない、のか?」

「出ねぇぞ」

 あからさまにテンションが下がる。

(そ、そんなぁーー!!活躍する嶋の姿、楽しみにしてたのにーー!!)

 え、何この反応。

 あれ、この人もしかして?

「そ、そうか。菅原君と言ったね。が、頑張ってくれよ」

(準決勝まで行け……さもなくば死ね!)

 怖い。

 目が何か、終わってる。

 この人、多分、嶋さんにホの字だな。

 この場にいたせいで、変なプレッシャーまで背負うことになった。

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