第49話・間違い探し
(はじめに)
今回のタイトルを修正しました。
修正前のタイトルは次回の物です。
(以下、本編です)
・
平業高校。
よもや、霧城高校に勝つとは……。
7対8。
とても、両チーム一人の投手で回していたとは思えぬスコアだが……。
平業高校の練習試合には、名だたる強豪が多い。
相手のチームを見に行けば、何故か平業は良い試合をしている。
一年生が当たり前のように活躍しているのだから、記者として、興味は当然湧く。
(去年とはまるで別のチームだな……)
嶋君や烏丸君、国光君といった、大きな粒は確かにあった。
それを活かすブレインが無かった。
強烈なリーダー力と、チームの統率力は、厳密には違う。
(チームの飛躍のきっかけはやはり……)
森本京平、か。
経験を積んできた捕手の存在。
平業に足りなかった最後のピース。
ましてや中学で頂点を経験した捕手となれば、役者として文句なし。
攻撃力の面では、この郷田君も充分な戦力になっている。
(気になるのは、この選手)
菅原迅一。
練習試合の時から、やけに目に止まる投手だ。
この霧城戦で大会初登板。
7失点するも、三振数は多い。
打者としての結果もある、が。
気になるのは、三原監督の采配。
(7失点もすれば、交代しないか?)
内容は良くなかった。
強豪の霧城打線相手に、完投まで引っ張った理由が分からない。
(何より、ここまで一度も出していないエースの国光君を、霧城戦で使うと思っていたのだが……)
下手をすれば負けていたようなスコア。
それだけ打線を信頼していたのか。
あるいは、菅原君の将来性に何かを感じていたのか。
森本君も、いや、チームの全員が、交代を進言しなかった。
ということは、やはり菅原君に、それだけ信頼される何かがあったのだ。
(結果的に、八回の三振は、完全に絶ち切れたはずの試合の流れを、取り戻していた)
あのストレートは見事としか言い様が無かった。
あの怪物の神木君に、擦らせもしなかったのだから。
それまでの全敗を、無に帰する、圧倒的なまでの一球。
(リードのスタイルが変わったと思っていたが。恐らく同点の均衡を破ったエラーの後、敬遠を選んだのは菅原君。そして神木君に対し、ランナーを背負って、しかもワインドアップ。あれは菅原君の意思だった。それで実際に勝利している。ということは、平業が菅原君に感じているのは……)
たった一球のカリスマ。
一年生で、無名の投手。
それが、甲子園を目指す球児達に、勝敗の懸かったマウンドを任せるほどの信頼を集めているのか。
(知れば知るほど、面白いな……)
しかし、菅原迅一。
菅原、か。
名前といい、誰かに似てやしないか?
インターネットで検索をかける。
……あっ。
そうか、こういうことか。
私としたことが、今更気付くか。
しかし、似ていないな。
顔のパーツは似ているが、髪型とか、雰囲気がまるで違う。
関西の高校にいたのか。
もしも平業が甲子園に行くことがあれば、見られるかもな。
(この代は、記者人生で最も面白そうだ)
・菅原迅一side
「俺、何かしら欠陥あるよな」
「多分な」
俺、郷田、荒巻の三人は、試合の振り返りをしていた。
京平は嶋さんと烏丸さんと共に、監督のところにいる。
島野、田浦、青山は自主練中だ。
内容はズバリ、俺のスタイル。
球速の不足、超回転、疲労によりギアが上がること、三種の変化球、これが俺について分かっていることだ。
そして、試合を振り返ってみると、俺の重大な欠点が発覚した。
「俺、ギア上がるまで球死んでる?」
「何つーか、固いわ。その日の調子が、初回で分からん。霧城打線の力が高すぎたのもあるやろうけど、確かに投げ始めは悪い」
「でも、迅ちゃんはスロースターターって感じでも無いわよね?」
「緊張してるってわけでもなさそうやな。じゃあ、考えられる原因としては……」
「「超力んでる」」
「そんな二人して声を合わせんでも……」
言われてみれば確かに、霧城の時は変に気負っていたような気がする。
神木との対戦を意識していたのもある。
が、本来の力を出せていたのかと思うと。
「出せてないよなぁ……」
そういえば、入ったと思った球がボールだったりしたな。
審判が厳しかったのを差し引いても……。
「まぁ、それはこれから考えるとして、打たれすぎなのはある。今回は勝てたが、普通だったら試合が決まる点数やからな」
「そう、それなんだよ。フォアボールとか抜け球を減らさないと」
「間違いなく、ウチの勝利は遠くなる……。とりあえず、すっぽ抜けは減らす。まずはそこからや」
「どうするの?」
「荒巻、携帯あるか?」
「あるけど……」
「フォームチェック。菅原、とりあえずネットに向かって投げろ。俺と荒巻で色んな角度から撮る。それを、試合の映像のすっぽ抜けの部分と比べてみるんや」
「それって意味あるの?」
「投球フォームは絶妙なバランスで成り立っていて、かつ、色んな癖が出やすい。抜け球になるってことは、そのバランスが崩れていたり、フォームそのものが変わっていたりする。最もベストな球の時が、最もベストなフォームに近いんや。まぁ、良し悪しの比較するってことやな」
やってみた結果。
「バラバラすぎやな」
郷田の一言で俺は沈んだ。
「まさか、ざっと見ただけでここまで違うとは……」
「何回か投げてやっと自分のフォームを思い出しているんやと思うんやけど、それやと今のところ先発は無理そうやなぁ」
「ブルペンでフォームを作ってからじゃないと、失点まみれで、戦犯待ったなしよ」
「荒巻、皆まで言うな……」
四つん這いで凹む俺を、郷田は何とか励まそうとしてくれる。
「ま、まぁ、良いフォームで投げれば通用するって分かったなら、良いフォームで投げられるようになればええだけやから、な!」
「ご、郷田……」
「それができなかったからこその大量失点だったわけよね」
ガラガラガラ……。
「す、菅原ァーー!!」
荒巻の一言で再びノックアウトされた。
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