第26話・強豪襲来
練習試合当日、午前7時。
「おはよ~」
「眠い~」
「俺緊張で寝れなかったぜ~」
先輩達が徐々に集まってくる。
いよいよ迎えた火山と有洛との試合。
出迎えもあるため、いつもより一時間早い集合となった。
「迅ちゃんおっはー」
「じ、迅ちゃんって……。お、おはよう荒巻。寝れたか?」
「あんまり。やっぱり緊張するわね」
「練習試合とは言え、有名なチームとの試合だからな」
「ま、向こうがフルメンバーで来るとは思えないから、そこは気が楽だったけどね」
「違いねぇ」
「あ、アタシのこともっとフランクに呼んで良いからね」
「いや、急。どうしろと」
「好きに呼びなさいよ。カオルンでも、良いわよ?」
「お前、そういう感じなの?」
「どういう感じよ。アタシだって普通に女の子だっての」
「……分かった。善処はする」
「お願いね」
全員が集合して監督が集合をかける。
「おはよう諸君。今日は気温も上がるし、体調管理はしっかりするように。8時頃には到着すると聞いている。それまでにグラウンドコンディションや選手間での打ち合わせなど、できること全てをやっておいてくれ。特に今日は厳しい試合になる。準備は万全に。勝てとは言わん。だが、実りのある試合にしよう!」
時は戻って昨晩。
俺は京平に球を受けてもらっていた。
「何、新球? ここにきて?」
「おうよ。郷田の監修でな。見てもらおうと思ってよ」
「ていうか明日試合だぜ? ここで見せられても、明日使えるとは限らないぞ」
「分かってるよ。でも自分で考えたんだ。可能性があるなら試したいだろ!」
「分かったって。熱くなんな。明日試合だし、十球だけな」
「十分だ」
三球投げて。
途中から郷田も来て、三人で見る。
「なるほど。チェンジアップか」
「コイツに合ってるであろう握りを試してな。結果、この3つになったわけや」
「最初のチェンジアップよりは使えるかもな。キレあるし、球速も落ちてる。超スローボールよりは使えるな」
「んで、もう1つあるんや」
「チェンジアップ四種? そんだけあってどうすんだよ」
「違う。これはチェンジアップじゃないで。だが、武器になる球や。完成すれば、これと真っ直ぐだけで勝負できるかもしれん」
「何だそりゃ。まぁいいや。投げてみろ」
振りかぶる。
いつものフォームで、力加減で、あのミットに、届け!
俺の手から放たれた球は真っ直ぐミットに向かい。
落ちた。
京平が後ろに逸らす。
初見は皆ああいう顔なのだろうか。
京平は初見の時の郷田と全く同じ表情をしていた。
「お前でも逸らすか。どうや京平。これ、使えると思わへんか」
「……正直驚いたぜ。こりゃ初見じゃ捕れないわ。」
・森本京平side
迅一の手から放たれた球。
余程の自信があったようだから何かと思っていたら。
(!? 真っ直ぐ ……ッ!?)
ミットに向かってきた球が、突如視界から消えた。
(落ちたッ!?)
反応が遅れ、止めようとしたが後ろに逸らしてしまった。
思わず面喰らってしまった。
「これはお前の入れ知恵か、マキ?」
「いや、アイツの発想や。握りの重要さは説いたけどな。これなら真っ直ぐと同じ加減やし、身体に負担もかからん」
「それでこれかよ……。だとしたら」
だとしたら、ヤバい。
かつてマキがまだ怪我する前、投手だった頃に握りの研究をしたことがある。
天才級だったマキでさえ、変化球に苦戦したし、握りを見つけるまで、慣れるまで時間を要したのだ。
それを迅一は。
己に合う握りを探し、自ら見つけ出し、更にそれを操って見せた。
この短期間で。
しかも、まだ一年でこの領域に足を踏み入れているとしたら。
「もしかしたら俺は、とんでもない才能を発掘しちまったのかもしれねぇ……」
「せやろな。ハッキリ分かる。あれは天才や。天才級とかやない。マジもんの才能。その才能が活かされる環境に入ったことで、これまでにできるはずだった成長が一気に進んどる。本人の努力を、自身の才能が追い抜いとる」
「同時に、危うさも分かったな。その成長が必ずどこかで止まる。恐らくそこが、最悪の挫折点。そこをどう乗り越えるか……。俺達が見ていてやらないとな……」
「おーい。二人だけで何話してんだ?」
「悪い。とりあえず、ゾーンに入らないことにはなって話だ」
「それなんだよな。まだまだ粗削りだから、もっと制球意識しないと」
「ただ、見た目インパクトは絶大だ。どんな変化球投げても、結局勝負を決めるのはストレートなんだ。コイツを脳に刻み込めば、それだけであのストレートが強烈に入る」
「未完成の変化球全てを、この練習試合で使ってみるんや。それで失点したら、俺らが援護したる。だから思いっきり投げろや」
「課題は合宿で消化すれば良いしな。それじゃあ、今度はゾーン意識して投げてみろ」
・菅原迅一side
そして当日。
バスが到着し、降りてきたのは。
「来たか」
火山高校野球部。
有名どこだけに、人数が多いな。
隣の嶋さんが呟く。
「ありゃ二軍メンバーもいるな。試合をするのは二軍連中ってことか。分かってはいたが、やっぱり一軍とはそう簡単にやらせてもらえないよな」
その隣の烏丸さんも、
「どうやら、海王も偵察に来るみたいですしね」
「自分達の最大のライバルに成り得るチームだ。見ておきたいのは当然だ」
「しかしまぁ、普通校グラウンドに強豪チームが踏み入るなんて、ちょっと感激」
星影さん、早くもなんか感極まっている。
「井田監督、今日はよろしくお願いします」
「いえいえこちらこそ、三原監督」
「まさか一軍メンバーを連れておいでとは、光栄なことです」
「今年のウチは本気で海王を倒すつもりですからねぇ。今日はフルメンバーで、本気で行かせてもらいます。平業さんも遠慮なくお願いしますよ」
「ええもちろん。胸をお借りいたします。……え、今なんと?」
「ですから、フルメンバーで行かせてもらいます、と」
「えー。ということで。一軍フルメンバーと試合するということだそうだ」
「は!?」
「じゃあなんで二軍連れてきたんだ……?」
「二軍にも良い刺激になるから、ということだそうだ。というわけでオーダー1ベンチにオーダー2のスタメン全員! 有洛戦ではベンチとスタメンひっくり返す! 試合状況を見て、メンバーを入れ換えていくぞ!」
てことは何、対海王の体勢で来るってこと?
これ、試合になるのかなぁ……。
「整列! 礼!」
「「「しゃーす!!」」」
火山との試合が始まった。
有洛高校も到着し、試合を見学している。
先攻平業、オーダー1。
相手の先発は二年の笠木鈴。
捕手は同じく二年の
「二年生バッテリーって珍しいな」
「久実の方はファーストか。アイツ、キャッチャーじゃなかったか?」
今の石森さんの疑問に、記録員としてベンチに入った尾河さんが答える。
「高校入ってからずっとファーストだね。中学の時よりかなり打撃に専念している感じかな」
俺は気になって聞いてみる。
「鈴さんと久実さんって兄弟なんですか?」
烏丸さんと尾河さんが答えてくれる。
「久実の方が兄貴。元々兄弟バッテリーで、シニアでは地味な方だったけど、高校入って一気に力付けたな」
「久実の方は元々強打者としては有名だったよ。本当に伸びたのは鈴の方。まさしく七色の変化球を武器に、三振の山を築いたことで、去年の夏大では一躍時の人となった。優勝した海王より、ある意味一目置かれる存在になったんだ」
「去年の決勝、鈴の失点は僅か一点。それも押し出しのフォアボールでな。それまでの失点さえなければ、勝てていた点数だな。あの海王も鈴の変化球を捉えきれなかったんだ。今年の火山の勝利が期待される理由ってのはそういうことだ」
「去年の課題だったスタミナをつけて、先発完投も十分可能な身体を作ったことで、優勝も現実味を帯びてきたしね」
ビデオで見た感じ、スライダーとシュートは本当に厄介そうだった。
「ま、そんな投手がわざわざ手の内見せてくれんだ。こっちも遠慮なくいただこうぜ」
ヘルメットを被った烏丸さんが、打席に向かっていった。
うーん、でも、そんな投手がウチに本気のピッチングなんてするかねぇ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます