第25話・地区大会、四強


「泉堂さんって、入部試験のとき外野ライトだったよな」

「去年の秋大会から外野で出場してたよ。かなりの強肩。投手としては、軟投派かな。真っ直ぐよりか、カーブとかシュートが得意だった」

 京平は去年、大会を見に行っていたらしい。

 色々説明してくれた。

「この人も強い粒の一人なのか」

「当時は野手不足だったみたいだし、投手として一歩足りずに、外野に入ったみたいだが、このオフで投手の力を仕上げてきたってよ。お前が濱さんと組んでる間に、野手兼投手の人と練習してました」

 投手メインが国光さん、堂本さん、俺。

 野手メインでリリーフ登板するのが、泉堂さん、樋川さん。

 元投手で今は野手に専念してるのが菊谷さん。

 菊谷さんはたまに、バッピやってるらしい。

「烏丸さんと嶋さん。特筆して強いのはこの二人かと思ってたけど、意外と器用な人も多いんだよな、このチーム。後は、俺がその人達を活かすだけだ」

「大した自信だぜ全く。じゃ、それにあやかって夏大までに、思いっきりレベルアップしてやろうかな」



 練習試合三日前。

 俺達は部室に集められた。

 野球部OBに大工がいるらしく、グラウンド近くに比較的安価に広い部室が作られたようだ。

 更衣室だけでなく、ミーティング室もある。

 試合前のミーティングはここでやっている。


「一年生とははじめましての人もいるので、一応自己紹介します。二年の尾河です」

 尾河おがわさん。

 チームの中の情報屋で、分析力はピカイチ。

 尾河さんは、パソコンを使いながら映像を流していく。

「今回の練習試合の一戦目の相手は同地区の四強のうちの一校、火山ひのやま高校です。今年最強と名高い海王高校と競り合えるとされる唯一の高校です」

「四強って言うと」

 俺が呟くと、隣の烏丸さんが説明してくれる。

霧城むしろ火山ひのやま千治せんじ海王かいおう。関東ぶっちぎりの実力四校だな。特に今年の海王は最強クラス。実質、甲子園確定とまで言われてんだ。そこに唯一勝機があるっていうチームが、ウチと試合組んでくれるなんてな……」

 尾河さんが続ける。

「今年の火山の最大の強みは、その圧倒的攻撃力。特にクリーンナップの佐藤、坂本、笠木久実かさきひさみ。長打が多いクリーンナップを中心とした、上から下まで超重量打線のチームです」

 三原監督が呟く。

「そういえば、去年の秋大会でも、チーム全体でかなりの得点率だったな」

「霧城にも神木という怪物はいましたが、全体的には技術で器用に攻めてくるチームでした。対して火山は完全に力で押してきます。少しでも甘い球があれば積極的に振ってきますし、下位打線でも平気でフェン直、下手すれば越えてきます。なのでより慎重にコースを突いて、こちらのリズムに持ち込まないといけません。最悪、何点かの失点は覚悟する必要があります」

 神木が何人もいるようなチーム……あぁ嫌だ。

「しかし、弱点が無いわけじゃありません。打てると思ったコースしか振らないことも多いですし、ミート力も全員が高いわけではありません。バントなど細かいプレーも少ない。しっかり角を突いて投げれば抑えられます。守備面でも、絶対エースの笠木鈴かさきれいさえ降ろすことができれば、ウチの烏丸、嶋さんを筆頭に流れを作り、打ち崩すことは十分可能です」

「烏丸さん。笠木鈴って……」

「去年、火山のエースを背負った逸材。コイツが海王に火山が勝てると言われる理由だな」

「主将の久実、エースの鈴。この二人を捉えられるかどうかが、勝負の鍵となります。今年の平業は一年の加入で投手陣、野手陣の層が厚くなっています。このメンバーで火山と互角に競り合えたら、甲子園も見えてくる。僕はそう思います」

 以上です。

 と、火山の説明を終え、尾河さんが次の表示を準備する。


「続いて、二戦目の相手。兵庫の有洛ゆうらく高校です」

 有洛高校。

 ここしばらくは甲子園では名を見なかったが、俺が小学生くらいの時はベスト8に食い込んでいた。

「俊足が有名な学校です。パワー重視の火山とはうって変わって俊足重視型。盗塁、バンド、エンドラン、スクイズなど細かなプレーで点を稼ぐタイプですね」


 ここでも三原監督の一言。

「近年はあまり見かけなかったが、三年前から監督が変わって、去年から一気に力をつけてきた印象だな。タイプ的には霧城に近いか。秋大会では準決勝で接戦して惜しくも敗退した」

「はい。この前田監督指導のもと、力任せだった以前までとは見違えた、圧倒的に器用なプレーがハマってきました。それに加え、主砲となる選手の強打力を活かすプレーもあります」

「一発もあるってことか……」

 京平が言う。

 そこを警戒しながらリードを考えるようだ。

「前進守備、カバー、ランナーの動きを常に選手一人一人が把握しておくなど、神経質なプレーが必要になりますね。捕球後、すぐに思い切り送球するなど迷いの無いプレーがあれば、十分失点を回避できます」

「ここは、全体ノックで確認していこう」

 三原監督が言う。

「守備範囲も広いですね。中途半端な当たりはほぼアウトになると思った方がいい。プレーごとのポジションの穴を見ての打ち分けが得点の鍵です」

 強いとこを攻略するには、やはり高い技術が求められるなぁと思ったミーティングだった。


「どっちのオーダーで火山とやるんですかね」

「まぁ、どっちとやっても学べることは多いんだ。火山でも有洛でも、ベストを尽くすのみだぜ。そら、バット振れ一年坊主」

 烏丸さんのトスで俺が打つ。

 昨日たくさん投げたので今日はノースロー。

 試合二日前の明日から軽く投げて調整していくので、今日は集中してバッティング練習を行う。

 外野手出場とはいえ、投手として登板することもあるのだ。

 両方やっておくに越したことはない。


 あっ、そういえば。

「前から聞きたかったんですけど、烏丸さんって身長そんな高くないけど、結構飛ばしますよね」

「ん? あぁ、ソウさんはタッパあるし、俺にはそういうイメージ付きにくいか?」

 ソウさんとは、嶋さんのことだ。

 嶋奏矢しまそうやがフルネームなので、略してソウさんらしい。

「はい」

「迷いなく返事するな。良いぞ、そういうとこ。まぁ俺の場合ホームランバッターって程筋力あるわけじゃないし、どっちかって言うと確実に芯で捉えることによって飛ばすほうだな」

 なるほど。

 前から気になっていた烏丸さんの打力の秘密を少し知れた。

 俺と体型が近いのでどうやっていたのか聞きたかったのだ。

「芯で捉えるのは本当に日々の訓練だな。色んな条件でバットを振ってみて、身体に染み込ませるとか。あとはボールを細かく見るとかな。回転、変化、リリースポイント、球速、コース。普段から見るところは沢山あるぜ」

 例えば、と言って烏丸さんは私物のバッグからボールを出した。

「これ、何だと思う?」

「数字を書いたボール、ですかね」

「そう。1から9まである。これをトスするから、番号読みながら打ってみろ」

 烏丸さんが適当にトスしたボールを、数字を読みながら打つ。

 9、3、5、7、2、8、1、4、6。

 読もうとして、スイングがぶれた。

「あれ?」

「上手く打てないだろ。こういうのを、瞬時に認識して、尚且つ芯で叩く。回転の遅いトスバッティングで目を慣らして、ここから色を変えたり、色と数字を同時に認識したり、トスする球数を増やしたりな。それで、バッピに投げてもらう。実際のボールは回転数多いし、そこで鍛える。直球に変化球。高さを変えたり、事前に指定したボールだけ振るなんてこともある。打撃練習も、ボールだけでここまでバリエーション増やせるんだ」

 仲間に手伝ってもらって、色々試すんだな。

 そう言って烏丸さんはまたトスを再開した。


「次! ゲッツーいくぞ! まずは463だ!」

「セカンド体勢の移行遅い! 足の速い選手なら二塁間に合ってないぞ!」

「次! ホームゲッツー! 確実にいくぞ、まずサード!」

 守備連携。

 テンポが速く、頭より先に身体を動かす練習。

 瞬時の判断を、頭だけでなく身体で行うのだ。

 スピード重視、正確性重視等々。

 様々な状況で自分が合わせる、相手に合わせさせる。

 とにかく想定されるもの全てを潰す。

 これで四強の下に甘んじてるチームの練習なのか。

 そう思わざるを得ない。

「外野行くぞ! 三塁回った二塁ランナー刺す意識で! 捕球から送球までの姿勢移行を速く正確に! チンタラやってたらコーチャーは普通に回すぞ!」

「腰を落とせ、腰を! しっかり関節のクッション活かせ!」

 強豪二校との試合に向けて、厳しい練習は続く。

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