第84話・平業史上、最強戦線
ブルペンでの投球練習が終わって、片付けに入る。
すると、京平が声をかけてきた。
「今日だよな。オーダー発表」
「あぁ」
平業は、スタメンの入れ替わりが、特に外野は激しい。
打順も、不動の一番二番はともかく、三番以降は代わる代わる。
京平は防具を外しながら言う。
「嶋さんが復活して、恐らく今日発表されるのが平業のベストオーダー、って事になるよな」
「そういう事だな。火山高校、か。ここまで来ちまったんだなぁ……」
「忘れもしないぜ。あの練習試合、久実さんとの最後の勝負」
「俺もだ」
(そして、鈴さんとの約束もな……)
俺は何かと鈴さんに気をかけてもらっていた。
自意識過剰になっているかもしれないが、あの人は、俺との勝負を期待してくれている。
だが、ここは準決勝。
エースの鈴さんは決勝で投げなければならないのだから、きっと火山サイドは温存してくるだろう。
久実さんだって、全力全開とまでは出して来ないかもしれない。
「双方どんなオーダーになっても、俺達は全力で戦うだけだ。必ず……」
「あぁ。必ず……」
((本気出させてやる。火山高校……))
考えている事は、二人共同じだった。
少し経って、ミーティング。
「では、準決勝のスタメンを発表する。ここから先の戦い全て、このオーダーで行く。呼ばれたら返事して起立しろ」
三原監督が、オーダー表を持ってきた。
皆の緊張感が高まる。
かつて経験した事のない領域、そこに踏み込む戦力が発表されるのだ。
「まずは一番、ショート、烏丸」
「はい」
「緊張して繋げようなんて、らしくないことを考えるなよ。お前はマイペースに自分の力を振りかざせ。遠慮なく一発狙える力があるんだからな」
「二番、センター、藤山」
「はい」
「ここまでの器用な立ち回り、かなり助かっている。打席数が多く回る二番なんだ。烏丸が出たら、併殺を恐れず、ガンガン振って返してやってくれ」
「三番、キャッチャー、森本」
「はい!」
「一年で正捕手、そしてクリーンナップ。重圧も仕事も大変だと思う。だが、前にも後ろにも頼りになる仲間がいるんだ。どんどん使ってやれ。仲間がいる限り、お前は無敵だ」
「四番、ファースト、郷田」
「え、は、はい!」
「何を驚いている。お前はもう立派な打線の中心だ。誰にも負けない一発のパンチ力は本物だ。迷った時は何もかも出し切れ。自分で思ってる以上の力があるんだからな」
「五番、サード、嶋」
「はい」
「ここまでよく耐えたな。お前には言いたい事は全部言った。せっかくの大舞台だ。暴れて暴れて暴れまくって、スコアボードぶっ壊してやれ」
「物騒っすよ、監督」
「六番、ライト、石森」
「はい!」
「準々決勝でのカット、見事だった。相手投手がいかに削れるかは、お前にかかっているからな。頼んだぞ」
「七番、レフト、鷹山」
「はい」
「どんな場面でも、お前はフルスイング一択だ。サインも出さん。三振でも良い。とにかく振れ。どうせ当たれば内野守備ふっ飛ばしちまうからな」
「いやいや、あれは偶然ですって」
(((やった事あんのかよ!!?)))
「八番、セカンド、荒巻」
「はい……」
「打順は下がったが、それはお前の打撃を信じていないからではないからな。どんな場面でも、どんなサインにも対応できる打者ってのは貴重なんだ。コンパクトに、尚且狙える所で大胆に。技術はチームでもトップクラスだ。星影を超えていけ」
「九番、ピッチャー、国光」
「はい!」
「六回と三分の二だったな、かつて私に言ったのは。でもな、今のお前ならもっと投げられる筈だ。投げられるイニングに全力を注ぐのも良いが、完投も狙っていけよ?」
「もちろんです。自分の身体が動く内は、マウンドは譲りません!」
「その意気だ」
「代打の切り札、山岸」
「うぉ、はい」
「油断してる場合じゃないぞ。富樫から打った一発が、お前の打力を証明している。特に変化球投手の笠木鈴が出て来たら、お前の力が必ず必要になる。守備の分も、打撃に集中しろよ?」
「は、はい!」
「代走、島野」
「はいッ」
「走塁技術の高さを見込んでの起用だ。勝負所ではガンガン出していくから、準備しておけよ」
「ベースコーチ、一塁菊谷、三塁樋川」
「「は、はい!」」
「プレイヤーに比べてどうしても目立つ機会は少ない。だが、三年間積み上げてきた経験と知識は、一瞬の勝負を我々にとって有利なものに導いてくれる。私の至らない部分での判断はお前達に一任する。ここから先の戦い、チームを支えてくれ」
「ブルペン、濱」
「はい」
「お前はもう立派なキャッチャーだな。状況によって出す投手は変わってくる。試合を見ながら、投手の管理を頼んだぞ。外野で出番あるかもしれんから、自分の準備も忘れるなよ」
「リリーフ、堂本、泉堂」
「「はい!」」
「ここまで勝ち上がれたのは、二人の力あってこそだ。ありがとう。ここからはどこで出番があるか分からない。いつでも投げられるように、肩を作っておいてくれ」
「横山、緑川は皆のケアを頼む。一人一人のコンディションをよく見てるのは知っているからな。特に暑くなる昼間の試合だ。二人の協力は必須。代打で出番もあるかもしれんから、油断するなよ」
「「はい!」」
「そして抑え、菅原」
「はい」
「千治での活躍、見事だった。投打共にチームは救われている。国光の調子次第だが、試合を決める大役、任せてもいいか」
試合を決める後半戦、最大の山場を任せたいと言ってくれた。
弱小、無名だった俺が、役目を与えられた。
応える以外の選択肢はない。
「はい、もちろんです!」
「ここからは、私もかつて経験した事のない世界だ!これまで以上の強豪が相手してくれるんだ!挑戦者としての意地を、存分に見せてやろうじゃないか!!」
「「「応ッッッ!!!」」」
平業高校、ベストオーダー、決定。
火山との試合に向けて、より熱が入るチームだった。
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