4.高河ゆんの記憶と「アーシアン」

 この方は腐に走った頃のキャプ翼同人で知ったざんす。

 つか!

 この方あたりので、「萌え」という感情が滾ったのかもしれまへん。二十歳そこそこでしたもん。

 ただし、基本的に好きだったのはCLUB/Yの頃の編集かな。

 同人バブル期、夜嬢帝国になると、どうもワタシにとっては今一つけばけばしい編集になったなー、という感じでな。本もでかく重くなったし。

 このひとの作品は「エロシーンなんだけどそのものを描かない」がもの凄く「エロ」い。

 手の先とか横顔とか、そういう部分だけを描写してまたそれがえろい。

 そういうとこに滅茶苦茶はまったざんす。

 当時もの凄く本つくりのセンスの良い「乙田基」さんも好きだったんだけど、このひとは当時にしてはそーとー「まんま」描いてました。

 この時代はまあ…… やおいであっても、ブツがまるでリアルではない、というか皆おそらくじっくり見る資料が無かったんだろなー、ということがよく判る時代でした。

 今はもう凄く沢山ポーズ写真集だのゲイAVとか出てるから、資料にこと欠かないだろうけど、当時はなあ!


 そんな中で、次第にプロの方でもこの方描く様になったのですが。 


 以下は厳しめの2011年に書いた文章の転載。

 この時期だから文章ちと固いぞ。


*その1


高河ゆんの長編作品は、

・まず「描きたい何か」があって

・んで描いて

・主張を激しくし

・しかしまとまりがどーしようもなく悪い

という印象が悲しいかなある。「好き」ではあるが。


 中編や短編、……少女誌に描いていたのは基本的に論外。だけどアフタヌーンとかウイングスに描いた奴には光るものが多かったと思う。

 特に「約束の夏」は後ろから3ページめで背筋がぞくぞくした。

 妖精事件に同時収録されている短編もいい。最近の00のやつもまとまってるよなあと思った。

つまりは「一瞬、ぎらりと光って気持ちを切り裂いていく何か」を描かせると強い、ということだったのでは。

 彼女はストーリーのひと、ではない。「人間関係」を描きたいだけの人に見える。おはなしも背景もそのためにこそ存在する。二の次三の次である。

 しかし長編はストーリーが命である。悲しいかな、勢いだけではいつか必ず失速する。どうしようもない。

 秋田書店系の長編がどうにもぐだぐだに終わったのは、必然的なことだったと思う。

 正直「ローラカイザー」はちゃんと終わったにもかかわらず、どういう話だったか、と言われるとうまく説明できない。誰の何のための話だったんだろーか、と。

そして途中で止まってしまった話については語れない。

 LCミステリーだったかな。「飢餓一族」くらいだとそれなりにまとまっていたんだけど。

 「ユアマイシャイニングスター」も「何だかな?」だった記憶が。


 「アーシアン」と「妖精事件」がそれでもあの期間続けて、そんで終わったというのは、あの話の構成のせいもあったと思う。どっちも途中までは一話完結短編シリーズものだった。それが途中から本題に入ってきて、最終的なまとめ、と。あとこの二つは「人間関係」そのもので進行できるストーリーになっていたから。


 これが「源氏」だとそうもいかなかったんだろう。結局未完になっている。

 基本が歴史という入れ物をSFにして好きなものぶちこんで、……ぶちこみすぎたのだろうと思う。

 途中の清盛兄と主人公二人が暮らす話や「遠野物語」は綺麗にまとまっていたんだけど。


*その2 アーシアンの「秘密の花園」。


 ルシフェルのことを描いた話はウイングスの未完ものと、2002年に書き下ろされたもの二つが存在する。

 前者は「桜公爵」がルシフェルの友人として出てくる。幼なじみで一番の友人の様に描かれている。だからこそ彼女が自分とミカエルの近親相姦でできた子供を託す、という形から始まる。

 だけどそのまま彼女はラファエルとの対決に向かい、次のシーンはすでに彼女の葬式である。

 その葬式で桜公爵が回想する、という「枠」がここでは存在する。

 後者は前者における空白の部分を「枠」にして使ったといえる。そして桜公爵の存在が無い。

 いや、無論名前は出てくる。が、出てこない。尺の問題もあったのかもしれないが、桜公爵はガブリエルにその「親友」という役割を統合されてしまった様な印象がある。


 ガブリエルの扱いも微妙だ。

 前者では彼女が「以前はルシフェルに告白したこともある」が「みなさん私を利用している」ということを十分理解している、一見ふわふわして可愛いが実は内心賢い女だった。悲しいかな、そのあたりでぶちぎれてしまったのだけど。

 後者ではルシフェルに一途な、だから共犯者たるラファエルと偽装結婚した、という形になっている。正直、まとまりはこっちの方がいいと思う。

 ただそれだけに、前者の方で彼女と桜公爵をどう扱いたかったのか、気になったりはする。

 いやそれとも、扱いきれなかったから、かもしれないが。

 「人間関係」を描くひとが、そこに詰まったら、話は止まるしかないだろう。


*その3 アーシアン(全体)考察。


 つか、「何で好きだったか」だよな。


 「完結版」の方の本編最終巻である3巻にあったインタビューを見て非常に納得できたことがあった。

 「みにくいアヒルの子が実は白鳥だった、というのが好きなんです」

 腑に落ちた。

 この話のばーい「みにくいアヒルの子=ちはや」は確実。

 んで、「白鳥」的要素が、「実は白い天使より優れた進化の先駆け。残していったもので黒色ガンの対抗因子が解明されエデンの人々と未来を救った」ということかな。

 ……かなり大きな「白鳥」ですな。

 一方確実に外見(白くて綺麗)その他(貴族で出来もいい)で「白鳥」だった影艶が、実は近親相姦の果ての「罪の子」だったりする皮肉。

 もっとも「だからこそ」所謂「罪」を「罪」としない母方(ルシフェル)の気性が強かったんだろーな。そして「黒い」=「一般的には不吉・綺麗ではない」とされていたちはやに一目惚れしている。


(いや当人が意識していたかはともかく、二人が最初に出会うシーンの背景がどーんと「桜」だったんだよな。当時の高河ゆんレシピによると「桜」は「初恋」だそーだ。あと「ひまわりは怖い(ルシフェルの墓の周囲はひまわりだらけ)・菊は宇宙に飛ぶ花・ばらは大人と不倫(主人公たちがくっつく辺りには突き刺さる要にばらがでまくってますな)」……そして完全版、のそのシーンはおそらく原稿が存在しなくて版下はコピーだよ……綺麗なシーンだったのに……)


 もっとも、その「みにくい」もただ「黒い」だけで、優秀はとびきり優秀というとこがミソ。

 しかもその「黒い=みにくい」はあくまで天使の価値観であって、地球人の大七とかには「綺麗」と言われてるし、天使と人間のハーフのエルヴィラには「こっちの方が好き」的発言をされているし。彼女がまだ世代がどーの、ということを知らない時期にだ。


 さてここで、ちはやに同調できる読み手としては。


1.「周囲から綺麗とは言われたことがない」

2.「外見以外の能力は決して周囲に劣っている訳ではない、むしろ優れている/もしくはそう思っている」

3.「外見的要素なんて価値観一つの問題だ」

4.「でも自分ではその価値観にひたりきっていて自分を綺麗と思えない」

5.「綺麗じゃないから自分は愛されることが無かった」

6.「だけどそんな自分でも受け入れてくれる人々がほしい」

7.「その人のためなら何でもできる」


と言う部分を多かれ少なかれ持っていたのではなかろーか。

 自分は確実にそうだ。


 1.は確実に無い。

 4.を絡めて3.で自己弁護し「面倒」を付け加えて外見の手入れをしなくなり、今に至る(笑)。

 どーしても自分の場合、「綺麗」のブロトタイプが恐ろしく堅固に存在していて、自分がそれに当てはまらない以上、どんな手を尽くしても無駄だ、という意識があった。逆に下手に手を出して中途半端な感じになるのが強烈に嫌だったし、実は現在も嫌だ(笑)。

 2.は。まー「学校」における「能力」ですな。学力。狭い世界では、確かに良い方だった。外見コンプレックスがある以上、意地でもそこだけはという部分もあった。

 5.は半分言い訳。実際は綺麗かどーかではなく、愛されるように努力と行動することが必要なんだが「面倒」なんでしてなかった。ので自業自得。

 6.はそれでもまあ、あるのは仕方がない。全くそれをあきらめてしまったら動く意欲も無くすんではなかろーか。しかしそんな人が現れたとしてもやはり「面倒」なので7.の様にはならない。うーむ。


 まあともかく、当時(80年代末~90年代初)のやおい女たち/まだ腐女子とまでいかなかったのでは、には何処かそーいう要素があったんではないか、と思わなくもなし。

 特に社会に出た時の違和感を持った様な人々には。


 そんでアーシアンの場合、特にその7.が大きい訳どす。

 だって「同性愛は何親等までの罪」だし。

 まーたぶん近親相姦もそーだったんでしょうな。要は「子供を作れない/作ってはいけないセックスをしたら死刑」。

「それでも」

 ちはやは基本的にあきらめることに慣れきった子でしたな。

 そもそも「生まれつき」というどうしようもないもの背負って、「だから捨てられたんだろう」と思っていた様な子だから。それでもあきらめきれなかったのが影艶って訳で。

 んで一方影艶はと言えば、ずっと無意識に無視していた感情を発情期がきた時にとーとー認めてしまったらもうどーしようもなく。

 でもそこで踏みとどまるべき、だったんでしょうが、できず。

 そらまあそーだ。結局初恋同士が目を塞いだまま溜まるだけ溜めておいた気持ちが一気に吹き出てしまったということで。


 ああ影艶にしてもガブリエルのこと好きだったー、というのはあるけど、結局それは「憧れ」でしょう。何処をどう考えてもラファエルに勝てない、というのをがっちり根っこに持っていたし。

 だってここのシステムだったら、女性が子供を持つだめなら色々な男とつきあってもいいはずだし。

 ……いやそれを言い出すと、作品世界の不備を指摘するからパス(笑)。


 んでまあ、そんな不備とか、最後のあたり、影艶は結局堕天になる訳ですがー。

 その時に公爵家のこととか全く考えていない訳ですがー(笑)。いやそれ以前に、か(笑)。

 親父と仲悪い、とはあったけど、まあそれは元々桜公爵(女)の方が勝手に引き取った何処の誰ともしれない子供、という事情があったんだろーけど。


 ……とか色々ある訳ですわ。設定に関しては。

 だってそもそも彼らの文化って現代日本の我々ベースにすぎないもん。

 2002年版の「秘密の花園」だって、ラファエルとガブリエルの結婚式がどー見ても現代日本の一般的なアレだぞ。


 それでも好きだった、ってのは結局上記のソレを思いっきり満たしてくれることがまず一つ。

 ポイントポイントで言うなら、個人的な大ツボは「ちはやの表情」とかかな。

 目に特に出てくる。

 絶望しきっている時なんかは表情そのものが隠されてしまうか、描かれないそれ。

 「完結版」だと「3」に顕著なのだけど、特に「ソーン・クラウン」まあ二人が裁判にかけられる回。

 全編通して瞳が黒く描かれていない。

 そして最後の最後、羽根をぶちきってしまうあたりでは全く表情が出てこない。というかうつむくかのっぺらぼう。

 これがすげえ効いた。

 これがちゃんと生きた目になるのが、影艶と再会した時、というのがやっぱりツボ。


 瞬間のでかいシーン。

 多紀が非常階段七階分を腕一本で支えて「しまう」とことか。


 絵と言えば。

 「ナイト・オン・ザ・プラネット」と「楽園の果実」あたりが書き込みのベストだな。

 ずっとこのレベルでそのまま続いていたなら本当に凄いシロモノになったと思うんだけど。

 まあ無いものねだりはできねえ。


 あとは何と言っても台詞か。

 ワタシゃ高河ゆんはこの「コトバ」に恐ろしく敏感で、破壊力があることを知っているマンガ描きだと思ってます。


 ただそのコトバ戦いのはずのLOVELESSはどうするんだ、ですな。

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