89.飛ぶ教室/ケストナー

 そして次はこれ!

 若草物語が女の子の話なら、これはもう少年の集団の大古典!

 ケストナーの話はだいたい面白いのですが、やっぱりこれがダントツ。

 

 舞台がまず戦前ドイツのギムナジウムの寄宿舎。

 ドイツは明確に「高等学校」と「実業学校」のルートが分かれていることで、この二つで血気あふれる少年達は対立する! という。

 ちなみに主人公達は「高等科1年生」。14歳とかその辺り。

 まあ何というか、この中心人物達



*マルチン・ターラー

 貧乏・勤勉・首席・絵画の才能・正義のためには拳も振るうぜ!

 一応主人公の位置。

*ヨナタン・トロッツ

 通称ヨーニー。「少年少女~」ではジョニーと訳されてたけどまあそれは仕方ねえ。米国生まれ。四歳の時に父親に捨てられ一人で船に乗せられる。結局迎えが来なかったことから船長の妹が引き取った形。文才あり。

 ……という過去持ちにより、一番近年の映画では彼が主役になってたなー。

 集団のブレーン。マルチンと一番近しい。

*マチアス・ゼルプマン

 通称マッツ。勉強は苦手。ボクサー志望。身体でかく、常に腹減ってる。ウリーと仲良し。

*ウリー・フォン・ジンメルン

 小柄。自分の臆病な性格をどうにかしたいと思っている貴族の息子。マチアスの親友。落下傘事件で足の骨を折ってからはマチアスも一目おくように。

*ゼバスチアン・フランク

 読書家なのだが内容が遺伝の本の辺りが印象的。皮肉屋。本心をそう見せない。弁が立つ。一人で居るのが好き。


と、メインが「五人」で、実にバランスが取れてるんだな!

 マルチンとヨナタンは頭が良くてだいたいのことがわかり合ってる。

 マチアスとウリーは正反対な感じだけど仲がいい。

 ゼバスチアンは孤高を保ってる。

 このバランスがたまらん。

 そんでそれぞれの得意分野があって、それを活かして皆で協力して対実業学校戦だのクリスマス劇だのやってる辺りが!


 まああと、ゼバスチャンと実業学校側のリーダーだったエーガーラントも敬意ある何とやら的に面白かったんだけど。

 そう、個人的にはゼバスチャンが良いのですよ。マルチンがいい子すぎて、ヨナタンが普通に本好きというのとは違うひねくれた頭の良さを持ってる彼が。

 ウリーの暴挙に対しての分析とか、帰省する時にプレゼントをそれでも買って帰る彼の「くだらないとは思ってるけどやっぱり買ってしまう」とマルチンに漏らす辺りが良い。


 そして脇役。

 色々あるんだけど、何と言ってもこの先生達がたまらんのだわ。


*ヨハン・ベク

 「正義ユスツス先生」「正義さん」と呼ばれてる。

 舎監の先生。独身。少年達の憧れの先生。

*ローベルト・ウトホフト

 「禁煙先生」「禁煙さん」と呼ばれてる。

 学校近くで買い取った禁煙車両を家にして一人住んでる。料理店…… というか居酒屋というかでピアノを弾いて賃金と「温かい食事」を得てる。

 マルチン達悪ガキ達は大人に相談したい、でもベク先生に相談すると絶対反対されるが、それでも実行したいことがある時このひとの所へ来る。


 そんでこの二人が実はこの学校に通っていた時の親友同士。

 ウトホフトが結婚してもベクが下宿して一緒に暮らしていたというくらい。おい。おい!

 ところが奥さんと子供を亡くしてしまったことで医者として~でウトホフト氏失踪。

 ベク氏ずっと探していたんだけど見つからず。ところが結局どっちもすぐ近く、自分達の素敵な時代を過ごしたところに居たという次第。

 クリスマスは二人で禁煙車両で過ごすんだってよ!

 この正体をマルチンとヨーニーが気付いて、二人を引き合わせることに。その後旅費が足りなくて(片道8マルクだけど5マルクしかかき集められなかった)帰れないマルチンにベク氏、「君達は禁煙先生を僕に贈ってくれたじゃないか」と往復旅費+αぶんのお金をプレゼントするという。


 子供の時は普通に楽しかっただけだけど、腐に目覚めた後見ると美味しすぎるんですよ! 特に先生達!(笑)


 ところで、訳がまた色々出てるんですが。

 ウィキによると。


・高橋健二訳、ケストナー少年文学全集 (4) 岩波書店(イラスト:ヴァルター・トリアー)1962年、のち偕成社(旧訳判)

・山口四郎訳、講談社文庫(旧版) 1983年、講談社「少年少女世界文学館 15」 1987年、講談社青い鳥文庫(イラスト:滝平加根)1992年、講談社文庫(イラスト:桜井誠)2003年

・若松宣子訳、偕成社文庫(イラスト:フジモト マサル)2005年

・植田敏郎訳、(世界名作文学集)国土社 2003年

・丘沢静也訳、光文社古典新訳文庫 2006年

・池田香代子訳、岩波少年文庫 2006年

・那須田淳・木本栄訳、角川つばさ文庫(イラスト:patty) 2012年

・池内紀訳、新潮文庫、2014年


 個人的には最初と最後の訳推し。

 高橋訳は何と言っても時代が一番近い。だから訳が当時の感覚に一番近い。

 「くず菓子」「最後のほね亭」等。ですます調。無駄にひらがなが多くないとこがいいし、原作のイラスト使ってるとこが良い。

 で、池内訳は「だ・である調」なんだよな。これが大人になってから読む時に良い感じなのだわ。特に先生達の方に視点をやった時!


 角川つばさ文庫の場合はマーティンとジョニーにセバスチャンになってるけど、それはどっちかというと英語読みだなあ、と思ったり。ただこの表紙だと主人公はジョニーに見えるな。

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