102.天帝少年 中村朝短編集/中村朝

 「部長が堕ちるマンガ」「シン・部長が堕ちるマンガ」「僕たちの魔王は普通」と素晴らしいギャグを生み出してくれた中村せんせいの同人誌で出してた短編集を更に加筆して(同人誌に比して)リーズナブルな価格で出してくれた! 一冊!

 それまでも同人誌の総集編の方は一応電子で読めたし買ってはいたんだけど、やっぱり紙の本で愛でたい!

 電子は電子でいいとこあると思うのよ、特にこの7月の旅でよく思い知った。速読人間が一人で旅行行く時には大量の電子本があると非常にありがたい。

 ちなみに「僕たちの魔王は普通」も、紙は2巻が絶版だったので電子をまず購入したのちに紙の古書探したんだよな…… おかげで旅先で読めたざんすよ。


 そんなまあ推しな作家さまが商業でシリアスの方をまとめてもらったときたら更に推すしかないですか!

 つか、あれだけの端々でネタを詰め込めるギャグが描ける方ならシリアス話が面白くない訳がない。


 ということで各話レビュー。


 ・きみが小説家を見つけたら

 小説家と泥棒のはなし。

 個人的にはこの「作中話」が染みる……

 はじめは観察するだけだった望遠鏡の向こうの世界に、夜、絵を描き出したら世界そのものに波紋が広がってった。好きな子ができ、その子のために絵を描いたら喜ばれた。だけどそこに別人が自分が描いたと言い出した。証明するために描く描く描く、……やがて全てを忘れてひたすら描くことに没頭してった……

 この話がすげえ良いのよ。無論それはそれで外側の話とリンクしている訳だけど。

 描き続けることそのものが命、みたいな。


・白件

 はじめは「白い事件」かと思ったら「件/くだん」の話だったんだな。

 この何というか、もの凄くちゃんとした大人が呑まれていく様が……


・トウテツの子

 トウテツは「十二国記」読んでたら判ると思うけどそういう魔物というか神様。……と人間とのハーフの少年と、国から彼を人間側に引き留めるべくよこされた少年のおはなし。

 何に関しても関心がなかったようなトウテツが彼の危機に本性を出すところに愛を……愛を感じる……  


・三弦巻き

 味を感じない怖さ。ナポリタンと思っていた、というところに恐怖。

 本当に味がわかるわからないってのは、人体の危機管理なんだなあと。小さな頃の偏食はメシマズからできあがることもあるしなあ。

 それだけにこの「兄弟の知り合いの子供」という謎な関係の子との親愛が泣ける……


・流行神プロトコル 

 トマソン物件の大コマは最初見た時びっくりした……

 このあとの天帝少年もそうだけど、どっかで一気に話を「こう思い込んでいた」前提をひっくり返すのが上手いんだよなあ。そんで切ない……


・天帝少年

 一度読んだあとにもう一度読むとがらりと話の内容が変わるという優秀なミステリのやうな!

 でもその一方でSF。「アンコール」ってことは、同人誌の「アップルピエタ」と同じ世界のものかな。あの場所に記された日付がその時点というにはあまりにも短すぎるから、作られた日付とみていいよな。

 そーすると「あの世界」ではその辺りで既にもう「そういうことにしなくてはならない」程酷くなっていたということだな……

 「長足ギイの帰還」や「アップルピエタ」の世界よりもっとずっと未来でなー。


 ということでこの本皆読んで!

 プラス「アップルピエタ」系話の続きを待ち望むのであったざんすよ。

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