第32話 秋葉原デート

 

 悩みに悩んだ……俺は耐えられるのだろうかと……。

 ここは聖地だ、女子を連れて歩くなんて…………夢の中だけだと思ってた。


 別に俺は硬派でも何でもない、秋葉原に女連れで軟弱な! とか、そんな拘りは持っていない。


 可愛い女オタと二人で楽しく秋葉デートなんていう夢は毎日の様に見ているくらいだ。


 ただ今回は違う……相手は素人だ。


 間違っても同人、しかも18禁コーナーは避けなければ……存在さえ気付かせてもいけない。

 多分オタとそうじゃない人の境界線は同人誌を買うか買わないかにあると俺は思っている。あくまでも俺の意見だから作者に対して感想欄とかで違うとか言わないように!



 じゃあ今回月夜野みたいな一般人を、どこに連れて行くかというと、そりゃもう同人ショップから入り、ガチャガチャコーナー、オデン缶食べて、ゲーム屋回って、エロゲーも見て、メイド喫茶で締める。自分厳選の店で勿論18禁だってドンとこい。


 え!? さっきと言ってる事が違う? なんで月夜野にそんな事をするかって? そんなの、決まってるさ! それはここが秋葉だからだ。


 秋葉で嘘はつきたくない、そして……あいつにも……。



 そんな計画を携え、俺は駅前で彼女を待っていた。予定時間まであと少し……。


「お待たせ」

 スマホをチラチラ見ながら待っていると。突然ゴスロリ姿の見知らぬ眼鏡美女が俺に声をかけてくる。

 一瞬メイド喫茶、いやゴスロリ喫茶の勧誘? って思ったが、お待たせという言葉に違和感を感じ、じっくりとその美女を見たら……


「月夜野?」


「他に誰かと待ち合わせでもしてるの?」


「いえ……」

 俺はもう一度月夜野を見る……上から下までリボンとフリフリ……まごう事なき黒ゴスって奴だった。


「いや、そういえばそんな服を一度着てきましたね……」


「秋葉って言ったらこれでしょ?」


「いや……まあ、いますけど……」

 そう言えば、月夜野って一番最初こんな服を着てきたけど……。

 その時はゴスロリっぽい黒系のフリルが付いたシンプルな服だったが、今日は紛れもない黒ゴス姿、ご丁寧に頭に白いヘッドドレスまで乗せている。


「ほら! どこへ行くの!」


「あ、はい……」

 ゴスロリ娘と秋葉デートとか、なにこのエロゲーの様な地獄のシチュエーション……。

 またこれが月夜野に似合いすぎて……秋葉でこれって、どう見てもそれ系の撮影としか思えない。


 俺はそんな月夜野を従えとりあえずいつもの同人ショップに向かおうとした。

 しかし、やはり心配した通り、通る人が次々と振り返る……目立って仕方がない。


 ちなみに俺も伊達メガネをかけていたが、月夜野はそれに突っ込んではくれなかった。しかもすぐバレたし意味無いのかなあ?


 なのでとりあえず当初目論んでいた秋葉周遊コースを変更する事に決めた。

 まさか月夜野があんな格好をしてくるなんて想像もしてなかったからだ。


 とりあえず俺は色々なオタグッズの店が集まっているビル『カルチャー文化総合村』通称オタ総合館に向かった。


 電気街という手もあったが、月夜野の格好だと目立って仕方ない。かといって同人ショップだとイベントと間違われる可能性もあるし、メイド喫茶だと店員に間違われる可能性もある。


 俺のオタ度を紹介するにはちょっと緩いけど、今の月夜野の事を考えるとそこが一番妥当と考え急遽変更しそこに向かった。


「ねえねえ、よく来るの? 秋葉原」


「あ、うんまあ、そこそこ? この間の上野デートの帰りとか」


「ああ、私も……」


「私も?」


「…………私も…………買い物に行ったよ」


「へーーどこに?」


「えっと…………し、下着を」


「下着……池袋でもそんな事言ってなかった?」


「そ、そうだっけ? って言うかなんで私が下着買ってるって話覚えてるのよ、

 キモ」


「キモって……自分から言っておいて……」

 全くいつもいつも理不尽である。


 そんな理不尽な会話をしながら、北西方向、中央通りを渡って数分程歩くと、オタ総合館がある。地下1階地上6階、キャラクターグッズ、ゲーム、コスプレ等々その全てがオタク関係のお店、しかし同人等のアングラ系は少なく一般人も来れるという環境、まさに今の月夜野にぴったり…………あれ?


「――――はあ……」

 ビルの前に到着するなり月夜野さんがため息をつく……何かがっかりされている様な、そんな雰囲気だ。


「えっと……こういう所やっぱり嫌でしたか?」

 外観から既にオタ臭さ満載、ビルには大きなオタ絵が描かれているので月夜野みたいな一般人には少し敷居が高いのかも知れない……が! これ以下ではなんの為に秋葉に来たかわからない、俺は男らしく月夜野に言った!


「えっと……嫌ならどこか他に……」

 どこが男らしくだって? だってえ……月夜野って怖いんだもん……。


「え? ううん、全然、お、面白そうじゃない! とりあえずコスプレ館に行きましょう」


「コスプレ?」


「あ、ほら、こういう格好ってコスプレって言うんでしょ? ファッション的な要素もあるしおすし」


「お寿司は良いんだけど……このビルにコスプレショップがあるのよく知ってるなあって……」


「え! えっと……ああ、ほらあそこに書いてある、ね?」


「………………ああ、本当だ……よく見つけたなあ、あんな小さいの、まるで知っていたかの様な」


「い、い、か、ら、行くわよ!」

 そう言うと月夜野はグイグイと店舗に入って行き、迷う事なくエレベーターホールに向かった……。


 月夜野…………本当にここ、いや……秋葉原初めて?

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