第78話 キスもまだ……


「貴女からお兄ちゃんを奪うつもりはありませんので」


 桜は真っ直ぐに瑠を見つめている……本気の目だ……まあ冗談なら質が悪い……かといって本気でも困ってしまう。


「瞬……この子……本気なの?」


「まあ……そのようで……」


「何でも他人事?」


「言っても聞かないんだ、だからここに連れてきた……ごめん」


「まったく……信じらんない……最低」

 そう言うも、頼られるのが嫌いじゃない瑠は俺を見て微笑む……。


「じょ、冗談でこんな事言いません!」


「──はあぁ……あのね? 桜ちゃん……その精……とか、言ってる意味わかってるの?」


「勿論です!」


「まったく……中1で……マセガキ……」


「ガキではありません! 生理も来たレディです! 大人の女です」


「生理とか大声で言わない!大人はそんな事言いません! 駄目な物は駄目!」

 瑠は頭痛がするのか? こめかみを押さえながらも……強気でそう言う。


「何でですか! ケチ!」


「あ、当たり前でしょ! 私達キスもしたことないのに、貴女が先になんて…………あ……」


「……は? キス……したこと……ない?」

 

「──そ、そうよ」

 瑠は、余計な事を言ってしまったとばかりに慌ててそう言う。


「……高校2年にもなって……してない……」


「う、うるさいわね!」


「お兄ちゃん! 本当にこの人と付き合ってるの?」


「え? ああ、付き合ってる……よな?」

 そう言えば……俺たち……なにもしてない……一緒に風呂に入ってシステムに警告を食らっただけ……まあ……正式に付き合いだしたのってこの間だし……。


「何で疑問形なのよ!」

 瑠が俺を見て牙を向く……いや、だって……ねえ……。


「ふふん、月夜野さん、お兄ちゃんの性の管理も出来ないで彼女なんてよく言えますね?」

 桜は先ほど迄の控えめな態度から一変、ソファーの背もたれに背中を預け、足を組み瑠に対して上から目線でそう言う……。


「せ、せ、性の……管理?」


「そうですよ、私はスポーツマンですからね、人体については詳しいんです! 知ってますか? 男の人って定期的に出さないと駄目なんですよ?」

 

「だ、出す?! ……そ、それは……」

 瑠は桜の言ってる意味がわかったのか、真っ赤な顔で俯く……。

 まあ月夜野はオタクだからねえ、しかもBL18禁漫画を買うばかりでなく書く程なんだから、男の身体については桜より詳しい迄ある。

 男が成人物を読む目的も勿論知ってるわけで……。


「お兄ちゃんの部屋には成人向け雑誌がありました、それは知ってますか?」


「え! あ、うん……まあ……」

 さ、桜? お前一体……や、やめてくれええええ。

 そして瑠! なぜ知ってる?! ま、まあ……コミフェに言ってる事を知ってるんだから知ってるか……それにしてもこんな所でやめてくれえ……。

 そんな俺の願いも虚しく桜は話を続ける。


「それを知ってると言うことは、お兄ちゃんに自慰行為は許しているって事ですよね?……私はお兄ちゃんと付き合う気はないんですから、私とお兄ちゃんの性的接触は、お兄ちゃんの自慰の手助けって事で」


「あーーーーほーーーーーーかーーーーーー」

 俺はたまらずまたもや桜の頭をおもいっきり叩く……こいつはこんな所でじいじいうるせえ!


「いったああああああいい、お兄ちゃん暴力反対!!」


「うるせえ!」


「お兄ちゃん! こんな何もさせない女のどこが良いの? もう別れなよ!」


「嫌だよ! 何でそんな理由で別れなくちゃいけないんだよ!」


「いい年でキスもさせてくれない彼女なんている意味ある?」


「あるわ!」


「私ならなんでも……」


「出来るもん!! キスくらい……いつだって……」

 瑠は俺と桜の会話を遮る様に、真っ赤な顔でうつ向きながらそう言った。


「──ふーーん、月夜野さん、お兄ちゃんは教えてくれなかったんだけど……付き合ってどのくらいなの?」


「え?」


「そもそも付き合いだしたきっかけは何?」


「そ、それは……」


「お兄ちゃんにいくら聞いても何も教えてくれなかった……それって何か言えない理由なの?」


「……い、言える……もん」


「じゃあ教えて、月夜野さんはお兄ちゃんの何がよくて付き合い始めたの? どっちが告白したの?」

 

 遂に来た……来てしまった……。

 桜に散々聞かれた……でも俺は言えなかった……。


 マッチングシステムでの出会い……1年前はお互い嫌いあっていた。喧嘩ばかり、言い争いばかりだった……そんな二人がマッチングシステムで取り敢えず付き合い始めたなんて……桜に言えなかった。


 瑠は俺の顔を見る……ここは同じクラスでと誤魔化そう……俺は瑠にそう目で合図した。

 前から、もしクラスで付き合ってるのがバレたら取り敢えずそう逃げようと、マッチングシステムの事は隠そうと言い合ってきた。

 

 だからここもそう言って逃れようと……俺は瑠を見て小さく頷いた……しかし瑠は俺の目を真っ直ぐに見て、少し考えてから小さく首を振った……。


「……あ、あのね桜ちゃん……私達は……国のシステム……マッチングシステムを利用して付き合い始めたの……私は瞬の事をついこの間迄……嫌っていた……の」

 瑠は桜に本当の事を言った……何か悪いのか? と言わんばかりに、全て隠す事なく打ち明ける。


 俺はそんな瑠の姿を見て、素直に凄いと思った……高麗川に言われた影響か? システムを利用して瑠と付き合った事に俺は若干ながら罪悪感を感じていた。


 隠さなければと、そう思っていた。


 でも……瑠は、俺とは違っていた……確かにこの先……俺達が一緒にいる限りこの出会いはついて回る……一生背負って行く……罪悪感なんて感じていたら、この先は無い……あり得ない……。


 瑠の覚悟を知って俺は涙が出そうになった……そうだ……俺たちはこれで出会ったんだ、そしてお互い好きになったんだ……何を隠す事があるんだと、そう思った!


 俺も覚悟を決めなければ……胸を張ってそう言わなければ……ならない。

 瑠と一緒に背負わなければと……そう思った。


 




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