第79話 理想のカップル


「マッチング……」


「桜……」

 桜は黙って僕たちを見ていた……どう反応するのか……泣くのか怒るのか……。

 また僕たちの間に障害が……桜も高麗川の様になってしまうのか……。

 次々に襲い掛かる俺と月夜野の障害……やっぱりそういう出会いって駄目なのか?

 そう思いながら桜の言葉を待った。すると桜はきょとんとした顔で言う。


「……お兄ちゃん、マッチングシステム……ってなに?」


「……」


 思わず、ずっこけた……そう、そうだった……この娘は桜は世間知らずなんだった……。

 練習練習の日々、熱血スポーツ少女……世間知らず……だから俺……なんて言いだしてる。


 まあ、俺もろくに知らずに利用したので人の事は言えない。

 ただ、今は誰よりも知っている……なんてったって警告や、処分まで体験したくらいだ……。


 俺はざっとマッチングシステムの内容と俺たちの経緯を出来る限り完結に、そして余計な事は省いて説明した。


「それって……お見合いじゃん!」

 俺の話を聞くと、桜は何故か目を輝かせながらそう言った。


「いや、まあ……てかなぜそこで目を輝かせる?」


「え~~だってお見合いってカッコイイ」


「なんだよカッコイイって」


「だって自由恋愛ってもう付き合う時点で好きが頂点じゃん、そこから増えないじゃん、てか、減る方が多いじゃん! その点お見合いって先があるじゃん、どんどん好きになってくじゃん!」


「そう!!、そうなの!!」

 そこで食い気味に瑠璃が言葉を発しながら、テーブルに身を乗り出し、桜の手を握る。


「どんどん好きになって行くの、私……どんどん……あ」

 瑠璃はそう言うと俺をちらりと見る……そしてその顔が白い肌がみるみる赤くなっていく。


「なんか……わかります! 私は絶対応援します!」


「あ、ありがとう桜ちゃん、わかって貰えて……嬉しい」

 手を取り合って見つめ合う二人、とりあえずこれで解決……。


「はい、それでお兄ちゃんとのエッチの許可をしていただく件は?」


「え?」


「え?」

 

「え?」

 二人の頭に疑問符が、ついでに俺の頭にも疑問符が付く。


「えっと……さ、桜ちゃん? 私の事、私達の事応援してくれるんじゃ?」


「はい! 応援してます!」


「えっと、じゃあ、彼の事は諦めてくれるんじゃ」


「へ?」


「いや……えっと……へ? じゃなくて……エッチはその……諦めてって」


「ああ! 大丈夫です! エッチと恋愛は別ですから! そもそも私、お兄ちゃんに対しての恋愛感情は一切無いので安心してください!」


「いや……そうじゃなくてね」

 桜の言葉に勢いに戸惑う瑠……。


「私オリンピックでメダル取るまで彼氏は作らないって決めてるので、大丈夫です! お兄ちゃんとエッチしても変わりません!」

 メダルを噛む動作をしながら満面の笑みでピースする桜に、瑠は呆気に取られ呆然としていた。


「……お、おい、言い負けてるぞ」

 瑠が許可したらって言ってしまった手前言い負けられると俺は……。


「な、何よ! 他人事みたいに! そもそも貴方がきっちり断っていれば!」


「うわ、こっちに来た!」


「貴方ひょっとして! わかってて……こ、このロリコン!」


「ろ、ロリって……」


「あああああ、ま、まさか! 私の身体も狙って! それでシステムを!」


「な、何でだよ!」


「最初からそう言うつもりだったのね! このけだもの!!」


「な! 狙ってねえ! そもそも狙えるもんじゃないだろ! あと俺はお前が大嫌いだったんだ!」


「な、何よこっちだって!」


「ねえねえ痴話喧嘩は後にしてとりあえず早くお兄ちゃんとの許可を」


「「うるさい!! 駄目に決まってるだろ(でしょ!)」」


「ふえ! し、シンクロ……」



「いやそもそも瑠はなあ、俺に当りが強いんだよ! システムで有った時も最初から俺の事バカにしてたよな!」


「何よ瞬だっていつもいい加減で、システムだっていい加減に手を出して!! 警告だって瞬がいい加減だったからでしょ!」


「な、なにお!」


「な、なによ!」


 俺達は桜をよそに言い争い出す。ついこの間まで俺達は毎日のように言い争っていた……手慣れた感じで相手を罵倒する、嫌な事を吐き出す……なんかでも……久しぶりで、少し心地良かった。俺も瑠も溜まっていたんだろう、暫くちゃんと向かい合って話してなかったから。

 

 俺達の原点、最初はここから始まった。

 俺も瑠も怒った顔はしていたけど、なぜだか目は笑っているようだった。

 



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