第35話 憎しみの目つきだった
月夜野の顔が青ざめる、そして口を手で押さえて首を横に振った。
「やっぱりか……」
まさかこんなあっさり口を割るとは、あっさり過ぎて今までなんだったんだって思われるよ。
「……こ、こんな……不意討ち……汚い」
「いや、不意討ちも何も……」
「私……完璧に隠してたのに……1年間誰にもバレなかったのに……」
「いや、えっと……それで隠してるつもりなら、多分バレて」
「酷い、酷い……ひっ」
「いや、聞けよ……ひ?」
「ひっ、ひっひ、ひび、びえええええええええええええええん」
「お、おい、ちょっと」
「うえええええええええええええええええええええん」
月夜野が泣き出した。しかもシクシクとかではない、子供の様にギャン泣きである……まだ開店直後とあって周りの客は少ないものの、ただでさえ月夜野のゴスロリ姿で注目されている上、さらにギャン泣きとあって、もう周りはこそこそではなく皆俺達をガン見である。視線が刺さるってこういう事を言うのね……。
「ちょっと、つ、月夜野、おい、えっと」
「びえええええええええええええええん」
嫌がらせの嘘泣きかとおもったが、目から涙が溢れ鼻から鼻水がたれ、もう可愛い顔が台無し……ゴスロリに合わせた黒っぽい化粧も崩れ顔が大惨事になっていた。
「あ、あのお……ご、ご注文のお品ですが……」
店員さんが月夜野の頼んだあふれんばかりの食べ物を持ってくる……いや、今それどころじゃないんですけど……。
「こ、こっですうううう、全部私のですううううう、びいえええええええええええええええん」
「食うんかい!」
泣きながら自分の注文だと店員に告げる月夜野、店員さんは慌ててテーブルに置くと、一礼をして小走りに去って行く。
「びえええええええ……むぐう、むぐ、びえええええええええええええええん」
目の前のパンケーキを泣きながら大きくカットするとそのまま一気に口に放り込む、そして一口二口噛むとゴクリと飲み込み再び泣く月夜野……き、器用っすね……。
「びええええええええー、むぐ、むぐ、むぐ、…………はあ、…………びえええええええええええええええん」
続いてパフェをスプーンで掻き込むと一瞬その甘さで笑顔になるが、また直ぐ思い出した様に泣き始める……なんだこいつ?
「あの、月夜野さん?」
「ふ、ふぐう、むぐ、むぐう、ふええええ、むぐう」
遂には泣くより食べる方に夢中になる。パフェとパンケーキをガツガツ食べ、アイスラテをグビグビと飲む……よく食べますね……。
『ピンポーン』
「は?」
月夜野は泣きながら食べつつ呼び鈴を押した。今度は何をする気だ?
まさか警察にでも連絡してくれとか? いや、ちょっと待て、さっきのはお前から手を握ったんだろ! 俺は月夜野が店員さんに何を言うのか、場合によっては止めねばと息を飲んで見守った。
「お、お待たせ……しました」
恐々と店員さんが訪ねて来る……そりゃあそうだよな、こんな別れ話してる様な、オタカップルの間になんか入りたく無いよな……。
「う、く、ひっく、か、かでえだいすと、おむらいつくだシャイ」
「な、なんだ?」
俺が月夜野に何を言ってるんだ? と言おうとしたところ店員さんが復唱する。
「カレーライスとオムライスですね、かしこまりました」
そう言ってお辞儀をした。
「ま、まだ食うんかい!」
しかも店員さん今のでよくわかったな!?
「だ、だっでええ、おご、奢るってえ、言った、言ったもんんん、うええええええええええん」
「わかった、わかったから……」
もう好きなだけ食え……今日は秋葉デートだから小遣い全額おろして来ていた。ただこれで買おうとしてた殆どの物キャンセルだな……はああ……俺のグッズ達よ……しばし待っていてくれ……。
先程の様なギャン泣きではなくなったものの、いまだにシクシクと泣いている月夜野、まだ話が出来る状態ではない。俺は黙って見守っている。程なくして注文した料理が運ばれ今再びメソメソと泣きながらムシャムシャと食べ始める。とにかく月夜野は凄い食欲だった……大和の食事を見守る艦○はこういう気分だったのかと思わされた。
そして見守る事数十分、すべての料理を平らげた月夜野……すげえなこいつ……全部くっちまいやがった。
食べて落ち着いたのか、泣くのを止めると月夜野は、食べ終わるなり俺を睨む……そして言った。
「…………本当……男って最低……」
月夜野の目付きが、俺を睨むその目が……初めて合った時、そう去年と同じ憎しみの目つきに変わった。
いや、変わったのではなくて……これは戻ったと言うべきだろう。
この目を見て思った、月夜野は最近俺を見る目が変わっていた事に……今、振り出しに戻って初めて気が付いた。
そうか……去年から今年カップリングされるまでは、こんな……俺に対しても……こんな憎しみの目をしてたんだって……そう思っていた。
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